第25話 練習開始です!

「じゃあ揃ったことだし始めるか。といっても、振り付けが違うから一緒にできるのはウォーミングアップくらいだけどな」


 その言葉と同時に、二人はウォーミングアップを始めました。まあ普通の準備運動に見えます。え、体柔らか!?


 そして私はといえば、また部屋の隅で体育座りしていました。いえ、何もできること無さそうだったので……。


 終わったらタオルとスポドリ渡すぐらいですかね。あとは……あ、そういえばパフォーマンスを見て欲しいみたいなこと昨日言われましたっけ……?


 もちろん! どんとこいです!! 役得すぎるこの立場!!


 これまで見てきた数々のライブから、目が肥えている自信はあります。


 そうして二人が準備体操を終えると、紗貴様がある提案をしました。


「トモリ、先に片方ずつ通して、互いに批評し合うのはどうですか! トモリのことだから、もう踊れますよね?」


「ああ、まぁ……そうだな。それじゃあそれでやってみるか」


「それならお先どうぞ♪」とニコニコした紗貴様。エンジェル、マジ尊い……と、そればかりじゃいけませんね。気分を切り替えないと。


 すると何を考えたのか、紗貴様は私の隣に腰掛けました。


 ふぉ! 隣!? 


 音楽が始まります。ですが私はそれどころではありませんでした。


 とな、隣に紗貴様が!! 顔ちっちゃ、可愛いいいい……!!


 そして灯里様の踊り始めただろう足音が聞こえてはっと我にかえります。

 ……ッいえいえいえ、今はそれどころではないのです!!

 私は灯里様を集中して見なければ! その、期待されているのですから!


 灯里様のプロに匹敵するダンスを注意深く見ていると、ふと小声で紗貴様が話しかけてきました。


「小﨑さんはトモリのこと……好きですか?」


 ……へ!? 突然なにを……!!


「す、好きですよ!?」


 そう口にした途端空気が刺々しいものに変わったのを感じました。


 あ、いえ、そういう意味ではなく……!? これは確実に私の言い方がまずかったですね!?


「も、もちろん恋愛とかじゃなくて憧れの方です!! 灯里様はとても努力家でプロ並みの技術を持っていながらもおごらず、いつでもキラキラ輝いていて……尊敬しています」


「……随分と詳しいんですね」


 その言葉の裏に、ボクの方が知ってますけど、と聞こえた気がしました。いえ、それとも知ったような口を……みたいなアレですか!? どちらにせよ……ッごちそうさまです!! 最高です!!


「……あの、雲ヶ先様は灯里様と昔から親友だったんですよね?

昔の灯里様ってどんな感じだったんですか……?」


 つい昔の灯里様を知りたいという欲望に抗えず聞いてみると、親友という言葉に刺激されたのか、紗貴様は答えてくれました。


 フッ計画通り……。……紗貴様なら気づいた上で乗ってきてそうですけど。


「長いし紗貴でいいですよ。

そうですね、ボクとトモリは昔から一番の親友ですからね!」


 灯里様を見つめながら言います。くるりと、灯里様はターンしました。


 へ、呼び捨てオーケー!? ありがとうございます!! でも様付けさせてください!! そんな馴れ馴れしく私が呼べないので!!


 紗貴様は思い出すように灯里様を、そのもっと奥、遠くを見つめていました。


「トモリは……昔から変わってません。正義感が強くて、人一倍頑張り屋で、鈍感で……そして優しいんです」


 よーく知ってます!! ……なんて言えませんが、その分強く頷きました。


「昔、ボクはイジメられていた時期があったんです。そんな時唯一庇ってくれたのがトモリだった。ボクにはヒーローに見えました」


 ええ、全部知ってますとも!! なんならイベントのそのスチルも見ましたとも!! マジで灯里様かっこいい!!


 ちょうどその時、灯里様は最後のポーズを決めました。曲がフェードアウトしていきます。


「……トモリはボクにとって、本当に大切な人なんです」


 その言葉に紗貴様の方を見れば、彼は「トモリー! お疲れ様ですー!!」と灯里様の方へ向かっていました。


 ……あああ!! 尊すぎる!!


 私は思わずその言葉の尊さに顔を庇っていました。


 これは……!! これは……!!


 彼は私に「本当に大切な人なんです」と、牽制をしたのです。だからこれ以上ボクのトモリにベタベタしないでください、と。


 はぁぁぁぁ!! 良い!! 実に良い!! なんて尊いこの関係性!! もうお前ら付き合っちまえよ!! いえ、付き合う前のこの関係性がいいんですよね!? 未熟でした……!!


「おい、小﨑?」


 へ? あ、灯里様!?


 気がつけば灯里様はすぐ前まで来ていました。彼はその滑らかな顎を伝い流れ落ちる汗をタオルで吹きます。はぁ、麗しい!!


「は、はい!!」


 返事をすれば、灯里様は首を傾げながら言います。


「僕のダンス、どうだったか? ダメだった所とか遠慮せず言ってくれ」


 え、遠慮せずですか……! ちょっと勇気いりますけど……そうですね……。


「……まず、あの途中の振り付けで手をこうやって動かすシーンありましたよね。それをもっとこう……動かしてから指を滑らかに曲げるというか、私が上手くできてるかはわからないんですけど、そっちの方がようこそ、の感じは出ると思うんです。あとは……」


 思いついた所をとりあえず指摘していきます。灯里様は真剣に聞いているようで、なんというか……ムズムズする、この状況……!


「……そうだな、そこは僕もミスしたと思った」


「あ、でも、カバーは完璧でしたよ!! 全くミスしてる雰囲気ありませんでしたし、前に私がこの振り付け見た事なければ気づかないレベルのものでした!」


「だけど、僕がミスしたのは事実だ。この部分の振り付けは少し苦手だからな……。また練習しよう。

紗貴はどう思った?」


 灯里様は今まで黙って聞いていた紗貴様に振りました。


「え、ああ、そうですね……トモリ、僕の希望って歌詞の部分、少しぎこちなかったというか、トモリらしくありませんでした。少し違う動きを意識したりしていましたか?」


「……! ああ、それは確かにそうだな……。いつもとは違う感じを意識してはいた。……駄目だったか?」


「いいえ、充分良かったですよ。ですが、もうちょっと馴らしたほうがいいかもしれません!」


 ……さすがです! 紗貴様! そんなの私全然気がつきませんでした!

 灯里様らしくないって所に気がつくのが紗貴様らしいですね!


「……そうだな。ありがとう二人共。次はそこも意識してやってみる。

じゃあ、次は紗貴の番だな」


「はーい」


 紗貴様は先程まで灯里様の居た場所まで歩いていきました。








 

 


 
















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