第13話 メイクなんて、私にはまだ早かったんです。

 お手洗いに駆け込み、個室に入ります。すみません、用があるわけじゃないんですけど、少し……占領させていただきます。


 ボロボロ涙がこぼれ落ちるのを、ハンカチを当てて吸い取ります。嗚咽もあの音の出るやつで殺し、まだじんわりと痛む目を閉じます。


 ……何やってるんだ。私。


 ハンカチは、涙で剥がれたのでしょう、杉原ちゃんがしてくれたメイクいろいろがついて、汚れてしまいました。多分今、ひどい有様です。……えっと、杉原ちゃんはこれ……クレンジングで落ちるって言ってたっけ……?


 杉原ちゃんが渡してくれた携帯用だろうクレンジングを眺めます。


 ……いつまでも、ここにいる訳にはいきません。顔洗って、心配させる前に戻らないと。


 人がいないかビクビクしながら個室を出ます。……よし、誰も居ない。


 ……うっわぁ、化物ダー。


 予想通り黒とかで化物めいた顔をバシャバシャと洗います。あ、すごい、ほんとだこのクレンジングってやつめっちゃ落ちる……! 


 メイクの落ちた顔は、やっぱり服のお洒落さに見劣りしてて、もさっとしていたけど、でもスッキリしていました。


 ……うん、何ナヨナヨしてんだ私。ちょっとスッキリしました!

 

 杉原ちゃんには申し訳ないですが、やっぱりメイクはまだ私には早かったんですね……!! こっちの方が、私らしい。 

 

 鏡の中の私は不器用な笑顔を浮かべました。


 ……うん、大丈夫。戻りましょう。

 


――食堂、灯里様の所へ戻ります。


「……と、灯里、様」


「……うわ!? 

……小崎? 君、本当に地味だよ……ッ! ……落と、したのか」 


 灯里様は気まずそうな顔をしていました。

 いえいえ、貴方様は何も悪くないので!! 私の考えが半端なく甘かっただけなので!!


 あぁぁぁぁ! 私のせいで罪悪感を!!


 すみません!! すみません!!


「……あの、えっと……予定、ですよね?」


「……その前にまず夕食頼みに行く。まだだろ?」


 ああ、早とちり……!


「わ、わかりました! 灯里様は何を頼みたいですか!? 一緒に頼んできます!!」


「…………いいのか? じゃあ、親子丼定食を」

 

 ……あれ割と量あるけど、意外とガッツリ派なんです……!? 何それ萌える……!!


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る