第8話 驚かせてしまいすみません……!!

 やってしまった……とそれだけがグルグル回ります。


 本人前に様呼びって、様呼びって……!! まだ彼はアイドル活動前、人気子役だったとはいえこの呼び方はまずかったのでは……!? 


 同学年らしく宵星くん、とかそういうのの方が良かったのでは……!? ……いや、彼は学園長を彷彿とさせるこの名字より、下の名前、灯里ともり呼びを好みます。……ってことは灯里くん……? いやいやいやいや、そんな!! 初対面で彼氏ヅラならぬ彼女ヅラできるほど私の肝は座っておりませんし、そのような呼び方私がするなんて……滅相もない!!


「……ッ、居たんだ……!?」


 ですが、そのハッとした表情でこちらを見る彼の、アメジストのような綺麗な目に、思考のすべてが吹き飛んでいきました。


 ……あ、やっぱり気づいてなかったんですね。


 なんて、自分がいかに地味かも気付かされましたが、その少しだけ目線の高い、綺麗な顔から目が離せなくなります。

 

「……ああ、買ってきてくれたんだ。……タオルも? 随分と気が利くな。ありがとう」


 スッと滑らかな動きで私の持ってきた物を受け取ります。現実で、生で初めて聞く彼の声は、声優さんと似てはいるものの少し違って、ちょっと高くてより彼らしいというか……そんな綺麗な声でした。


「……着いてすぐで悪いけど、して欲しいことがある」


 …………!? 私……ありがとうって言われ……これは私――話しかけられている……!?


 一気に脳がショートします。


 私が……私なんかが彼と会話を交わしていいのですか神様……!? いえ!! お話することが一生の夢でしたが!! でも、いざとなるとヤバイぃ……心の準備がッ!! 全くできておりません……ッ!! 


 本当に、貴方様は何度私の心臓を止めにかかると気が済むんだと……!! いやあ素晴らしいです!! 素晴らしすぎ


「はい、これ、僕のスマホ」


「ふぁ、ハイ!?」


 灯里様は私に自身のスマホを渡します。受け取りましたが……ふぉぉぉぉ!! トモくんのスマホ私物だ……ッすみませんつい前世の呼び方を……!! っていうか気持ち悪すぎる反応ですよね!? ウッ、興奮を抑えきれませんでしたッ……!


 そんな私の心境を知らない灯里様は話を続けます。


「これで僕のダンスを撮ってほしい。撮り方は……分かるよな?」


 


 

 


 

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