第7話 スポーツドリンクを届けます。

 購買で王道スポーツドリンク『Charge』とついでにタオルも買い、12レッスン室を探します。なにせこの学園、島1つが全て学園だから、施設とかも馬鹿でかい。とにかく広いんです……!!


 私はまだ入学して1ヶ月。こんな広い校舎の配置を覚えられているはずがなく……センライスマホで地図を見ながら走ります。


 レッスン室なんだからそういう設備の整った5棟か4棟だけど……地図だと5棟だ!! ……いやでも5棟って迷路みたいに入り組んでるんですゥ……!! 辿り着けるかな私……!!



――なんとか彷徨いつつ、目的の12レッスン室に辿り着きました。かなりの時間がかかってしまいましたが……すみません灯里様……!!


 深呼吸。ドクドクと音を立てる心臓を落ち着かせ、コンコンとノックを2回。


 ……この先に、宵星 灯里様がいる……!  もちろん、興奮しないわけがない。が、必死で堪えます。まずはこのスポーツドリンクを手渡すんだ……がんばれ、頑張るんだ私……!!


 恐る恐る、と、ドアを引きます。


 すると音楽が流れてきました。……もしかして、もう、練習してます……?

 

 音をたてないように開き、中に体を滑り込ませます。と、同時に視界に入ってきた情報に目を見開きました。


 ……そこには、天女様の様な青年がいました。


 ふわふわと揺れる薔薇色の髪、そんな凄い髪色が似合ってしまう、神々が作り給うたとしか思えない造詣……いや、もうこれは神自身じゃないのかと思えるような最高の――ッ……とんでもなく長くなるので以下略しますが、そんな彼が踊っていました。


 ゲームでもダンスの腕は1級と公式で言われていただけもあり、動きはキレッキレ、難しそうなステップも難なくこなしています。


 私はしばらく見惚れてしまいましたが、ハッとなってドアを閉め、邪魔にならないように部屋の隅へ移動します。


 ふぉぉぉぉ!! やばいやばいやばい!! 踊ってる……!! トモく……灯里様が踊ってる……!! このような姿を見ることができるなんて、私は今日が命日ですか……!? いえ、死ぬにも死ねません……!! 私はもっとライブを見たい……!! ていうかかっこよすぎるゥゥゥゥ!!


 ……ハッ、まさか、『せいぜいこき使うさ』ってことは……このようなことが、珍しく……ない!? 


 なんて、考えながら……今に至ります。そう、レッスン室の隅で灯里様を眺めてるって状況です。


 けれど、楽しい、というか幸せな時間は短いもので、曲が終わってしまいま……ってぇえ!! 何その決めポーズかっこよ……!? 貴方様は何回私の心臓を止めれば気が済むんですかぁ!! 最っ高。素晴らしすぎる!!


 なんて、ずっとポケーっとしていた私ですが、ようやく本題を思い出しました。


 ……ハッ、Chargeスポドリ渡さなくては……!!


 灯里様は証明に照らされキラキラ光る汗を拭っています。後ろ向いてるのになんで分かるかっていうと、私のアイドル愛の力……ではなく部屋に取り付けられた大型ミラーに映っているからですね。


 ……あぁぁ、心臓のバクバクが収まりません……!!


 今はまだ卵ですが、大好きなアイドル、大好きなゲームのキャラクター、その2つを兼ね備えている彼を前に、オタクの私が緊張しないはずもないのです。


 ……いけ!! 行くんだ私ィ……!! 灯里様にChargeスポドリとついでにタオルもお渡しするんだぁ……!! あ、飲みやすいようにキャップ外しといたほうがいいかな!?  いやでも正真正銘新品、異物混入は一切してませんって示すためにもそのままお渡しした方がいい……!?


 ……そのままで行こう……!! そう、足を踏み出せ、私ィ……!!


 プロデューサーを目指してるというのに、ゲームのキャラクターであるとはいえ、アイドルの卵を前にガチガチになってしまう私。……前途多難です……!!


 ……アッ!!


 灯里様の元へ向かうために踏み出した足でしたが、緊張で機材が見えておらず足を引っ掛けこけ……かけましたがッ、気合でこらえます。よぉーし、よくやった私ィ!!


「ヨッ宵星 灯里よいぼし ともり様!! コレッ、どうぞ……!!」


 ……あ、ヤベ。


 思わず様呼びしちゃったァァァ!!

 


 

 

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