10話 秋月敦(秋水)Ⅰ

 いまだ攻略者の情報すら上がってこないAH。そこで配信者としてはトッププレイヤーの一角であるだろうと自負している男は、気になるワードが飛び交っているのを見つけた。

 ソロでイフリートを3分間クッキング!?などというバカげた書き込みがあったのだ。

 「おいおい、ソロってのはいいとしても、3分はきついだろ…」

 注目を集めたい目立ちたがり屋か?と、苦笑しつつ、しかしその書き込みを読むうちに男の顔色はみるみる変わっていった。

 「…おいおい…なんだこれは…」

 書き込みにはその3分間を映した動画が添付されていた。

 …なんだこの動き。まるで踊るように…、いやイフリートが躍らされている?いや、今の一撃がなぜ当たらない??チートか?しかし…。

 自分の世界に入り込み動画に見入っていた男は、左腕に痛みを感じるまで、自分の名前が呼ばれていたことにすら気が付かなかった。

 「いって!」

 「おい、あっしー!無視すんなし」

 男の左側には、同じくパソコンを起動し、ヘッドセットを付けた全身ジャージ姿の女がいた。右手に痛みの元凶であろうボールペンをもち、こちらを睨みつけたまま女はフンと鼻を鳴らしながら口を開いた。

 「もう配信開始予定時間過ぎてるんですけどー」

 「え?…あっマジじゃん!悪いちょっとまって!!」

 時計を見るといつの間にか21時35分…。男が例の書き込みを見つけてから、ゆうに3時間がたっていた。

 「いやだ、まってやんねぇ。先始めとくからな、秋水しゅうすい。まぁ、てなわけでみんなごめんねぇ。秋水、あと5分ぐらいおくれるから~」

 にやにやと笑みを浮かべながら女は男を見つめる。

 「ごーめん、みんな遅れた!ほんと桜花おうかやってくれるわー」

 『いや、悪いの完全に秋水じゃん』『桜花ちゃん、センスあっていいわー』などと視聴者から寄せられるコメントを横目に、男は桜花にチョークスリーパーをお見舞いしていた。

 「…秋水、悪かったって、ギブギブ」

 『なになに?秋水さん桜花ちゃんいじめてるの?』『うわ…自分が悪いのにひでぇ』

 男の味方はどこにもいないらしい。当然といえば当然であるが…。

 「みんな、ちょっときいてー?秋水ってさ?私が話しかけても名前呼んでも、ずっーとおんなじ動画見てんの。笑えるくね?」

 『ひどー』『え、何の動画?』『どうせエロいやつだろ、みんな詮索してやんなって』

 「いや、それがさ?イフリートを3分間クッキング??みたいなコラ動画でさぁ」

 『3分はないだろ』『え?あれ、本物らしいよ?』『あれか!俺も見た見た。たしか白の女神がなんたらってやつじゃね?』『白の女神ってなんそれ』

 「えー、あれ本物なの?だとしたらチーターでしょ。だって…」

 「いや、桜花。それがさ?たぶんあれ…チートでもなんでもなく、本物っぽいんだよね…」

 『え、秋水さんあれ信じちゃう感じ?』『白の女神ってじゃあほんとにいるの?』

 「確証…はないんだけどね?」

 『なんだよ、ねーのかよ』『えーこれどっちー』

 自分の発言を遮ってまで確証がないといいながら口を開いた男を、女はぽかんと眺めていた。

 「ま、いいじゃないの、このゲームの可能性がさらに広がったわけじゃん。みんな今日もたのしくいこーぜ」

 

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る