9話 紗耶香とペリドット
なんかよくわからないけど、いきなり連れてこられた私は、紗耶香の所属しているクランが集団でイフリートさんを狩るというので、それを遠目に観察することになった。
「小春、いい?何があっても手出さないでね?」
そういわれてから25分。すでに前衛が3枚欠け、後衛が全滅し、残っているのは紗耶香と、団長と思わしき豪華な装備の方のみ。
しかし、イフリートの体力に至ってはまだ8割も残っている。
「…紗耶…じゃなかった。アリス!!大丈夫!?」
「橘花は手出さないで!!」
しかし、紗耶香ことアリスは、手を出すなという…。
いまなら…。いまなら、まだ助けられるのに!!
そうこうしていると、アリスがもろにいいのをもらって、その場でやられて消えた。
…残るは団長ただ一人。
その後1分とたたず、団長も目の前でやられていった。
「…じゃあ、次、小春。あいつ倒してきて?」
復活して帰ってきた紗耶香に、私はアレにソロでいけと…そういわれた。
…やだよー、イフリートさんこわいのに!!
「…うん?なにか?問題でも?こ・は・る?」
「…やります」
もう、どーにでもなーれ。
そう思っているとさっきの数人に、ひそひそ愚痴をこぼされる私。
おいおい大丈夫かよ。さっきびびってずっと後ろにいただけのやつだぜ?
そーよそーよ、それにもし仮に倒せるってんならどうして手伝ってくれなかったの?
と、それはもうひどい有様である。
…さて、いっちょ黙らせますか。本当に紗耶香は私の扱いがうまいなぁ。
それから私がイフリートを狩りきるまで、3分とかからなかった。
「…アリス、これでいい?」
驚いた表情の紗耶香をみれただけ良しとしよう。
「…小春…あんた、予想以上だわ…」
そうフレンドチャットを送ってくる紗耶香。おもわずにやけてしまうのも無理はないだろう。
「さぁ、これで文句はないでしょう?まだ団長の私のわがままにしか思えない?」
そういって後ろを振り返る
…うん?え、紗耶香が団長だったの??さっきの団長?っぽい人はじゃあ?
「…いいーや、だめだ、やっぱり俺は認めないね」
一番に口を開いたのは、ザ前衛職といわんばかりの豪華な鎧を身にまとった男だった。
「…っ!そ、そうよ!私だって認めないわ!!」
それを聞いてか、何人かの不満げな意見が続く。
後衛職の要であるヒーラーの女。歴戦のつわものという風貌の雰囲気のある魔導士の男。果ては先ほど団長と勘違いしたあの男も、である。
「…アリス。私自身は問題ないと確かに思った。…だが、ここまで団員たちが反対するのであれば、今後の指揮に関わる。私も反対させていただこう」
「…はぁ、もう。相変わらずね。わかったわかった、私の負ーけ」
そういって大げさに肩をすくめたアリスは、私ににっこりと笑いながら言った。
「じゃ、そゆわけだから。もういってもいいわよ。白のめ・が・み・さ・ま」
その顔はいたずらに成功したといわんばかりの小学生のようであった。
…え?ちょ、え?嘘…よね?
などとざわめき立つ紗耶香の団員たちに疑問を浮かべながら、私は指示されていた通り、駆け出し風の弱い衣装から、普段の装備へと切り替える。そう、白を基調とした普段の装備に。
そしてそのまま、私はその場を後にした。
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