6話 獄炎の番人《イフリート》

 立ち向かったはいいが、初撃以外はまともな一撃がきめられず、無様な姿をさらしている。

 開始早々、1撃もろにくらってしまった私は、HPを7割もえぐられ、びびりたおしているというのが現状だ。だって仕方ないじゃん?次もらったら普通に耐えられるかわかんないもん…。

 ひぃぃ!!ごめんなさい!調子乗りました、イフリートさん許して!!などと、1撃かすりそうになるたびにわめきながら、私はそれでも少しづつ削っていく。

 しかしいかんせん、体力が多すぎる…。

 「あと8万ってなに?馬鹿なの?イフリートさん馬鹿なの!?ひぃぃぃ!!!今当たったって!!ほんと当たってたからぁぁ!!」

 紙一重でかろうじてよけてはいるものの、このままではじり貧なのも確か…。

 ここは、攻めに転じ…られるかボケ、あほ、馬鹿野郎!

 運営も馬鹿なの?死ぬの?って感じである。…あ、イフリートさんは死んでほしいので、馬鹿なままで、よろしくお願いしまぁぁぁぁすっ!!

 …やめとけ私、サマー〇ォーズかよ。立派な現実逃避である。

 ちなみに交戦時間は…いまだ1分弱しかたっていない。

 え?行けんの?私これ間に合うっつうかシンプル死なない?

 「あぁぁもう!弱気になるな、集中しろ!」

 敵の動き…はだんだん見えてきた。いける、かわせる。パターンもある程度は理解した。

 「そこ!」

 私をなめるなよ?イフリートさん。お前の動きはすでに見切った!!

 よし、いいぞ、残り体力3万ちょい…いける!

 そう思った矢先である。雄たけびを上げ激昂したイフリートさんは、攻撃パターンを見たこともないものへと変えた。

 「あわわ、ちょっ!!え、ストップ!イフリートさんストップ!!」

 全身を包み込む炎が激しさを増し、斬りかかろうものならば、火の子で私にもダメージが入るようになったらしい。そのうえ攻撃パターンは凶悪そのもの…。

 「見切ったとか調子乗ってすいません!!謝るから許してぇぇ!!」

 紗耶香が見ていれば、しばらくいじり倒されること間違いない。

 それから3分ほどたったのち、ビビり倒し、がむしゃらにボタンをたたき…。どうやったのかは覚えていないが、なんとか私はイフリートさんを倒していた。

 「って、時間やばい!あと30秒!!」

 蘇生アイテムは…あぁもう!整理してなかったから…。これでもないし…。

 「あった!!」

 今度こそ間に合って!!

 〖プレイヤー 橘花が プレイヤー ジャック の蘇生に成功しました 蘇生まであと58秒〗

 「…よかった…助けられた」

 安心して冷静になった私は、ローブがイフリートさんによって燃やされ、アバターの顔がになっていることに気づいた。

 「…あ、やば…。だめ、顔恥かしくて見せらんない!」

 プレイヤーのジャックが起きる前に、復活する前に、ここ離れなきゃ…。

 そして私は、走り去ったのであった。


 のちに“白の女神”と称され、戦場で困ったものを助け走り去るプレイヤーがいると噂になるのだが、この時の私は知る由もなかった。

 いわく、“白の女神”はローブをかぶり、顔は決して見えず。シルエットから男性アバターではない。チャットによる会話、アイテムや金品の要求、見返りを求める行為いっさいなし。死していても時間内であれば蘇生までしてくれる。そして舞うように敵を切り裂き、すべてのものが魅入る…と。

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