2話 神田紗耶香Ⅱ

「ふむふむ、キャラクターのパラメーターはプレイヤーが自由に好きなものに振れるタイプのゲームか」

 紗耶香の発言を受けその気になってしまった私は、Angel Haloのチュートリアルをプレイしている。ゲームの世界観はRPGゲームなんかでお馴染みの中世ヨーロッパ。そこにこれまたお馴染みの魔物と呼ばれるモンスターがいたり神様がいたりと、今のところは他のRPGゲームから大きく逸脱している点はない。

 「どう?小春」

 「うーん…今のところ普通?…というかむしろ普通過ぎる」

 まさか騙された?そんな考えが頭をよぎる。しかし私はそれをすぐさま否定していた。紗耶香に限ってそれはない、と。

 「だよねー、私もそう思う」

 …大丈夫だよね?少し心配になった。

 「小春、心配しなくても大丈夫よ。このゲームのキャッチコピーは知ってる?」

 私は横に首をふる。

 「例えレベルが1のプレイヤーでも、ワールドボスに勝てる!ってものなんだけど…」

 「…だけど?」

 言いよどむ紗耶香に私は続きを促す。

 「うーん、なんだろなぁ、私は現実的じゃない気がするのよね」

 …気がする?いい切れないということはつまり理論的には可能?

 「Angelの戦闘パートは完全にプレイヤースキルだからさ?そりゃうまい人なら行けなくはないと思うよ?けど現に誰もクリアできてないわけだからなぁ…」

 うーんとうなりながら、私を置いて一人妄想の世界へ羽ばたく紗耶香。

 …いいや、ほっとこ。

 画面へと目を戻した私は、戦闘パートのチュートリアルを始めることにした。

 …ペンギン?

 最初に出てきたモブほまさかのペンギン。後から聞いたがAngel Haloのイメージキャラクターにして、超レアモンスター。…そんなこともわかるわけがなく、私の頭には?が浮かんでいた。

 この世界観でペンギン???スライムとか、ゴブリン、ドラゴンとかじゃなく?

 私の中でこのゲームに対して抱いていた“普通”という印象が砕け散った瞬間であった。

 え?ちょ・・・ペンギンつよ!

 そのうえ、どうせ雑魚敵、という考えも改める必要がありそうだ。

 やばいやばい、チュートリアルであ、死ん・・・おぅ…。

 あー、これは恥ずかしいやつ・・・。紗耶香なんかには見せらんないやつ。

 横目で紗耶香の様子をうかがう。

 幸いにして、紗耶香はまだ妄想の世界にいるらしい。

 さて、気を取り直してもう一度…。

 「え、珍しい、小春が死んでんじゃん」

 どこか嬉しそうなにやけ面の紗耶香。

 みられてたぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!

 恥ずかしい…というか、悔しい。私よりもゲームの下手な紗耶香にあんな表情を向けられる日が来るとは…。

 「どれどれ、どの子にやられたのさ」

 笑いをこらえるようにして画面をのぞき込んでくる紗耶香に、私は顔をしかめながら今見たモンスターの特徴を伝える。

 「…ペンギン」

 RPGにおいて、まさかペンギンにやられたなどとそんな屈辱的な報告をする日が来るとは微塵も思っていなかった。

 しかしながら、その一言を聞いた紗耶香は、思いもしない反応をした。

 「…え?ペンギン!?ちょっ!!え、そいつ名前は?」

 「AHエンペラーペンギン?」

 「はぁ!??え、うそ、え、え??」

 …何さ?怖くなるじゃん。

 「え?いやだって!!私も動画でしか見たことないようなレアモンスターだよ!??」

 …いや、そんなん知らんし。

 「えーー」

 …いや、えーーじゃないよ。私のセリフだよ。

 まぁ、いいや。とりあえずしばらく戻ってこなさそうな紗耶香は置いておいて…。

 「ペンギン許すまじ。貴様だけは何があろうと二度と逃がさん。」

 この小春の決意が、のちのAHエンジェルヘイロー史に深く刻み込まれる出来事の引き金になるとは、おそらく誰にも予想がつかなかったであろう。

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