消えたノイズ
目が覚めた、相変わらず鳴り響くノイズ。ああ、やはり昨日の受信は気のせいだったのか?受信していたかどうかすら怪しいが。第二話まで読みにきた物好きなら知ってるだろうけど俺は少々妄想癖があるんだ、メガロマニアってやつじゃないかと思ってる。まぁメガロマニアという言葉の詳細を知っているわけじゃねーけどな。
とにかく、件の無音状態が果たして受信していたのかはどうしても気になるんだ、なにしろこの趣味を始めてから一度だって受信できたことも、送信できたこともないんだから。一度くらいは人の生の声ってのを聞いて見たいし、相手にも聞かせて見たいって思うさ。ただ、空想も趣味の一つだ。これがなきゃ俺という人間が成り立たない。気にしたところで解決しないなら仕方ない、本日も空想の世界に浸るとしよう。
空想というのは何も想像した世界に浸るだけが空想じゃないんだ。
自分がどういう風に生きているか、物事をどんな風に見ているか。感じているか。そんなことを改めて考え直すことも空想の領分だぜ。さて、この部屋での暮らしはかれこれ何年目になるかな。片手の指じゃ足りないが両手の指なら事足りる程度だ。たまには外に出ようかと考えたりもするが結局悩んだ末出たことは無い。
そりゃあ春の気持ちいい風を感じるのも夏の鬱陶しいほどの日差しを浴びるのも俺は嫌いじゃなかったが、年を重ねるごとにそんな気持ちは失われてしまった。外に出たってただ絶望が増すばかりだ、これを読んでいる君もわからなくは無いだろう?
今や外出するくらいならこの部屋で空想しながら受信機のノイズを聞いている生活の方がよほど健全に感じる。人というのは変わってしまう物なんだ、同じように外の世界だって変わっている。俺の知っている世界じゃ無い。たまったもんじゃないね。
「ーーーーーーーーーーーーーー」
「えっ…?」
ふと気が付いた、また音が止まっているじゃ無いか。もしかして受信しているのか…?
俺は思わず装置の右肩に取り付けてあるマイクに近づいた
「…聞こえるか?」
…沈黙。反応はない。
もしかして機械の不調なのか?であるなら不味い、これは俺の生きがいの一つなんだ。引きこもりの俺にはこの装置の仕組みやらパーツやらはわからん、直せないぞ。
そう考えているとき、微かに音が聞こえた。
それはこの物音ひとつない部屋だからこそ聞き取れるほどに小さな声だった。
「おやすみ、元気でいてね。…ごめんね。」
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