第5章 第33話「開票結果」

「まーだごねてんのか、ヒヒマの兄ちゃんは」


 魔物食堂にて、ヨウダイが呆れた声を上げる。


「ヒヒマ、そろそろ行かないと、開票に間に合わないよ」


 アレンもヒヒマを急かす。


 立候補者演説から一週間、今日はいよいよ投票日。

 議会の部族代表五十名が、次代の王を選出する。


 しかしヒヒマは、


「うるせえ!

 どうせレオンが再選だろ。あんな恥ずかしい演説しちまったんだ、公の場になんて顔を出せるか!!」


 演説の翌日から、こんなことを言い出す始末。


「そうかな?

 何度も言うけど、俺はいい演説だったと思うよ」


 アレンの言葉に、ソニア、ヨウダイ、ドラコも頷く。


「いや、あれがいい演説なわけねえだろ。途中で支離滅裂になってたしよう。

 まあ実際、八割方レオン、二割がラーヴァタってとこだろ。天地がひっくり返っても、余所者の俺が当選することはねえよ。バトルフェスタで優勝したってんならまだしもな。

 っつーわけで、そろそろサバンドールともおさらばかねえ……」


 そう言い捨てながら、窓の外を眺めるヒヒマ。

 その姿には最早哀愁すら漂う。



「いやいや、仮にそうだとしても、絶対、絶対行っといた方がいいよ!!」

「うん、そうだな。よし、ドラコ、手伝え!!」

「おう」


 遂に強硬手段に出るアレンたち。

 ヒヒマの手足を掴んで、力任せに引き摺り出す。



「おい、やめろ、放せ!無理やり引っ張るな……ってドラコお前、馬鹿力!!」



 ギャアギャアと喚くヒヒマだが、本気で振り払おうとはしない。


 目指すは王宮、ビースティヤロック。



---------------


 王選挙の投票~開票は、厳重な警備下、王宮内の大広間で行われる。

 そこに参加できるのは、立候補者、警備担当、選挙委員、許可証のあるマスコミ、その他一部の関係者のみだ。

 

 現在、議員五十名による投票は既に終了し、もう間もなく開票作業が始まろうとしている。



 レオンは隣にいるラーヴァタに話しかけた。


「ちっ、ヒヒマの奴、来ねえのか」

「どうですかねえ。まあ、もうちょっと待ってみましょうよ」



 しかし会場にかの猿人が現れることはなく、開票作業が始まる。



「……四十九票目、ラーヴァタ様。

 五十票目、レオン様」



 選挙委員が、最後の票を読み上げるのと同時に、



「ここだここだ!

 もう終わってるかな!?」

「ああ、ここだ!ギリギリ行けると思ったけど、王宮内で迷っちまった!」

「なあお前ら、やっぱり帰らねえか?」

「いい加減にしなさいよ、男ならシャキッとしなさい!!」



 ドアの向こうから、慌ただしい声が響く。

 一部の議員や選挙委員は眉を顰めた。


「すみません、遅れました!!」


 謝罪しながら、ドアを開けるアレン。



「……静粛に!!」


 年配の獣人が咳払いをしながら告げる。


「あ、申し訳ありません……」


 慌てて声のトーンを落としながら、体を小さくして入室するアレン一行。


 

「……それでは、開票結果を発表いたします」



 選挙委員の一名の宣言に、広間内には若干の緊張感が漂う。




「第六十二回サバンドール国王選挙。

 投票数五十、無効票ゼロ。

 当選者は、十八票を獲得の、レオン・ハートホールド様となります」


 

 広間内に拍手の音が鳴り響いた。



 ヒヒマがアレンにこっそり話しかける。



「ほうら見ろ、言った通りだ。帰ろうぜ」

「いや、終わるまではちゃんといようよ……」



 アレンたちが話している間も、開票結果の発表は続く。



「その他の立候補者の得票数を発表いたします。

 

 ギーグ・ンドル様、六票。

 ラーヴァタ・マハ様、八票。

 エルキア・ヒポウ様、五票。

 ピジャック・マコイ様、三票。

 ヒヒマ・レボ様、十票」


「……ん?」


 耳の端でしか聞いていなかったヒヒマだが、自身の得票数に違和感を覚える。



「現王、そして次代王となりますレオン王、一言お願いします」


 投票終了後、現王が最後に一言述べて締めるのが習わしだ。

 なお、次代王当選者の演説は、後日大々的に全国民の前で行われる。



 レオンが壇上に上がる。



「まずは、選挙委員の諸君、お疲れ。

 第六十二回サバンドール国王選挙が滞りなく終了できたことのも、選挙委員の確実な仕事のおかげだ。改めて、感謝の意を述べさせてもらおう。

 

 そして議員の諸君も、今まで世話になった。まあ今回は俺が続投という形だが、一応の区切りだからな。これからも、よろしく頼む。



 さて、具体的な今後の人事や方針は、後日の王話の機会にさせてもらうが、ざっと今考えていることを話しておこうか。


 

 今後も王議会としては、魔物対策と自然災害対策、食糧調達について力を注ぐ必要がある。


 ギーグ、対魔物を想定した、軍の訓練案を提出してくれ。それとファスリィオと共に、各道場の師範を集めて、意見を収集しろ。

 

 ラーヴァタは、ノエルと一緒に、人材の確保。特に農業に強い奴をかき集めろ。


 エルキア、もしよければ、水棲獣人達を中心に、水害対策の方針と計画案を策定してくれ。専門家も紹介する。


 ピジャック、お前の言う鳥人の輸送網と魔物監視については、商人共との調整が必要だ。できるか?また後で詳細を詰めさせてくれ」



 レオンはここまで言って、ヒヒマを見つめた。



「そして、これが一番デカい政策になる。


 サバンドール国は今後、マシナ国と友平条約を結び、かの国の電気技術を積極的に取り入れることとする」



 この宣言には、さすがに会場全体がどよめく。



「……まあ、今まで言ったこと全部、議会と一緒に、改めて検討が必要だがな。

 今考えているのは、こんな感じだ」



「??」



 突然の宣言に、理解が追い付かないヒヒマ。

 彼に向かって、王が叫ぶ。



「おら、ヒヒマ、聞いてたか!!」

「あ、ああ!!」

「……鳩が豆鉄砲食らった顔してやがんな」

「そりゃ、いきなりだからな……」



 にやりと笑うレオン。



「まあ、お仲間に感謝しろってこった」



 ヒヒマはその言葉に、アレンの顔をまじまじと見る。



 アレンはニコリと笑って親指を立てた。

 

 

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事態を理解するには、事は四か月ほど前に遡る。

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