第5章 第28話「バトルフェスタ⑩:ヒヒマVSノエル 決着」
「これはすごい、ヒヒマ選手の大技が炸裂!!!
ノエル選手の育てた森を完全に破壊してしまった!!
ここまで、互いに多くの
現時点では、双方決定打を与えられず!
戦いはこれからどのような展開を見せるのでしょうか!?」
「うおおお、あの猿人、すげえぞ!!」
「おーう、そのまま委員長を食っちまえー!!」
「いや、ここで負けるようなら伊達に委員長は張ってねえだろ!」
ユーリの実況に、観客のボルテージも更にヒートアップ、口々に応援や野次が飛ぶ。
武舞台はもはや原形を留めていない。
積み重なった瓦礫の上を跳躍しながら、ノエルに近づいていくヒヒマ。
「さて、この子たちもそろそろ育ち切りましたよ」
そう言うと、ノエルは気障ったらしく指をパチンと鳴らした。
それを合図に、
「「「「キシャ―――!!!!」」」」
瓦礫の山から突如飛び出す四つの影。
「何だ!?」
思わぬ気配に驚きながらも、ヒヒマは防御態勢を取る。
それは四体のリザードマン、二足歩行する蜥蜴の魔物たち。
身長は一メートル五十センチに満たないほどで、リザードマンとしては小柄だ。
それらは機敏に動き回り、隙を見てはヒヒマに攻撃を加えてくる。
その様子を見ていたアレンは思わず叫んだ。
「ちょっとあれ、反則じゃないの!?」
しかしタイミングよく、ユーリの実況が入る。
「えー、解説します!
我々委員会は、試合開始前に選手の武器防具を全てチェックしております。
ノエル選手が持ち込んだのは、植物の種と、何種類かの魔物の卵。
つまりノエル選手は、試合が始まってから、あれらのリザードマンを育てたのであります。
自身の
「えー、そうなんだ……」
渋々も認めるアレン。
「でも、あんな風に魔物を操ることができるのね」
ソニアも驚きを隠せない。
『いや、あれも木魔法だ』
『え、木魔法?』
『ああ、あのリザードマン達をよく見てみろ』
裕也に言われ、アレンは武舞台上のリザードマンを凝視する。
「ああ!!!
よく見ると、リザードマンは皆、どこかしらから枝を生やしていた。
『リザードマンを直接操っているのは
『ほへー、そんなことが』
『試合中に魔物を孵化させて成長させるなんて、どんな方法を使ったのかは分からねえが、あの
リザードマンの攻撃は、素早い移動による爪での引っ掻きや、長い尻尾を鞭のように扱った殴打、それに口から吐く水弾だ。
リザードマン達は、それらの攻撃を次々とヒヒマに見舞う。
時間差で、ヒヒマの動きを先読みするかのように各個体が行動。それは野生のリザードマンにはない連携だった。
アレンたちが気付いた通り、完全にノエルの統制下にあるからこそなせる動き。
「確かにうぜえが……」
ヒヒマは脚を強化、リザードマンのうち一体との距離を一気に詰め、そのまま腹を蹴り飛ばす。
ギャフン!!
という悲鳴と共にリザードマンは吹っ飛んでいく。強化されたヒヒマの蹴りは内臓を破壊しており、リザードマンはそのまま絶命した。
「所詮蜥蜴だ、この俺に叶うと思うか!?」
残った三体のリザードマンも、ノエルに操られ連携しながらヒヒマを迎え撃つが、ヒヒマは僅かな隙を見逃さない。
一体一体確実に葬っていき、遂に四体目のリザードマンを撃破。
「あーっと、強い、ヒヒマ選手!
ノエル選手の操るリザードマン部隊の強襲を物ともせず、完全撃破!!」
しかし、
「ん?」
ヒヒマは自身の身体の異変に気付いた。
「……てめえ、何しやがった?」
「ふふ、彼らはただの時間稼ぎですよ」
そして、これまで植物や魔物に攻撃させ、自身は後方に逃れていたノエルだが、一転、一気にヒヒマへと強襲。
「強化魔法は、私も得意ですよ!!」
ノエルは魔法で身体能力を強化。
しかし一方のヒヒマは、身体を強化することができず、
「ここでノエル選手の猛攻!!
ヒヒマ選手は受けることしかできません!!」
『ヒヒマの奴、魔法を使っていない……魔力が切れたか?』
『ええ、やばいじゃん!?』
裕也が気付いた通り、ヒヒマの
そのためヒヒマは、生身の身体能力と、経験からくる読みで、ノエルの攻撃を何とか受けていく。
(おかしい、何もしていなくても
賭けるしかねえか!!)
ヒヒマは大きく跳躍してノエルから距離を取ると、
「【
【
またもや地面を拳で打つ。使ったのはなけなしの
今回は甲高い音が鳴り響くも、地面にダメージは認められない。代わりに、ヒヒマを中心とした空気の震えが球状に広がっていく。
「何だ今のは、ヒヒマ選手!
対戦相手ではなく、地面を殴りました!土魔法なのか!?」
ユーリも思わず疑問を叫ぶ。
『まただ、皮膚を部分強化』
観客の誰もが派手な音に気を取られる中、裕也はヒヒマのもう一つの気配に気付いていた。
「……そこか!!!」
全身をソナーのようにして、振動の
対戦相手とは明後日の方向へ、一目散に駆け出す。
「まずい!!」
ノエルも慌てて追うものの、ヒヒマの動きを止めることができない。
「こいつのせいか!!」
瓦礫に隠れていた
ヒヒマはその脚を掴み、そのまま瓦礫ごと吹き飛ばすように振り回した。
「何だあれ?」
「うわ、でけー蜘蛛」
瓦礫がなくなり、ヒヒマの仕留めた魔物の正体が明らかになる。
それは、全長一メートルほどの巨大な蜘蛛だ。
地面に叩きつけられ、脳震盪を起こした巨大蜘蛛。腹部からは、先ほどのリザードマンと同じく枝が伸びている。
「あれ、でかいけど、吸魔蜘蛛じゃねえか?」
「えっ、あんなでかいのいるの?」
「聞いたことあるぞ、北の虫人が暮らす地方では、虫たちも巨大化してるって」
ヒヒマは手刀を作ると、巨大蜘蛛の胸部に突き刺して、腕を引っこ抜く。
そこには黒光りする臓器が握られていた。
「何のつもりでしょう!?
あれは、魔核でしょうか。魔核を取り出しました、ヒヒマ選手!」
そしてそのまま、取り出した魔核にガブリと齧り付くヒヒマ。
「食べている!!魔核を食べています、ヒヒマ選手!
まずくないのでしょうか!?」
「げ、生で食いやがった!!」
「おえー、マジで!?」
「けどよ、内力は回復するよな、多分」
そのまま魔核全体をペロリと平らげてしまう。
「……まずいわ!!!
ここ数ヶ月で魔物食いには慣れたんだがよ。バジャージョの旦那の腕はやっぱ天下一品だな」
そう言いながらもヒヒマは、自身の身体に内力が通うことを確認。
「さあ、一気に決めるぜ!!」
脚に溜まるのは、本日最大限の魔力。
全速力で駆ける。
一方のノエル、急激な速攻を捉えきれていない。
「おらあ!!!!」
遂にヒヒマの右拳が、ノエルの腹にヒット。
「ぐ、はぁっ」
その打撃を耐えることはできず、ノエルはそのまま意識を失った。
「勝者、ヒヒマ選手!!!!」
審判の宣言が会場に響く。
対照的に、観客も、実況のユーリも、声を失っていた。
しかし一瞬の静寂はすぐに、大歓声で破られる。
「うおお、あいつ、やりやがった!!」
「やべえ、やべえよ、委員長がまさかの一回戦負けだ!!」
「猿人が本選で活躍なんて、何かの間違いじゃないの!?」
「いや、見ただろ、あのヒヒマって奴の強さは本物だよ!!」
今大会、第四試合にて、初めての
それも誰もが認める勝利だ、会場が湧かないはずがない。
「ヒヒマ選手、劇!的!勝利!!!!
まさかの、我らが委員長がここに下る!
さあ、この試合が波乱の幕開けとなるのか!?
この猿人戦士の下克上がどこまで続くのか、これから目が離せません!!!」
ユーリも心なしか、本当に興奮しているようだ。
実況の調子がワントーン上がっていた。
そんなユーリの元へ、一人の獣人が駆け寄る。腕章をつけているところから見ると、大会スタッフの一人だろう。ユーリはスタッフからの伝言に頷くと、事務口調に戻ってアナウンスする。
「皆様、まだ早い時間ではございますが、武舞台の復旧に二時間ほどかかる見込みです。
よって、本日のバトルフェスタ本選は、これにて終了とさせていただきます。
本選一回戦第五試合以降は、翌朝より開始となります。
本日はお集まりいただきありがとうございました。
お気を付けてお帰りくださいませ」
「何だよー、良いところだったのに!!」
「いやまあ、あの惨状なら仕方ねえよ」
「ご苦労さーん!!」
「楽しかったぞ――!!」
「委員長、今日は残念だったが、いい試合だったぜーーー」
会場の熱気は冷めないが、委員会の決定に大きな異論も出ず、ぼつぼつと観客たちは帰っていく。
「俺たちも帰ろうか」
アレンたちも、魔物食堂へと戻ることにした。
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