第5章 第26話「バトルフェスタ⑧:決勝戦開幕」

 二次予選の終了から、二週間後。

 この二週間で、王都ヴィゴールの様相は大きく変わっていった。



 大通りには多くの屋台が立ち並び、広場では常に催し物が開かれる。

 どこもかしこも獣人たちで大賑わい、地方からの観客でごった返していた。


 有体に言えば、まさに「お祭り騒ぎ」。

「四年に一度の大イベント」という前評判は伊達ではない。



 そんな活気に溢れるヴィゴールの街でも、一際熱気に包まれているのが、ここ、中央闘技場である。

 それもそのはず、間もなくバトルフェスタ本選の開幕式が始まろうとしていた。



「すごい人だ!」

「ああ。アルトリアの王都でも、こんな大規模なイベント滅多にないぜ」

「それだけ、この国の人にとっては重要な大会なのね」

「一国の最高峰と言える武人たちの戦いを見れるチャンスなど、滅多にない。武に身を置く者なら、誰もが注目するところだろう」

「わん。おれは色んなたべものがあってうれしいぞ」



 アレン、ヨウダイ、ソニア、ドラコ、タイガは、観客席の一画にて口々に感想を述べている。



「おっ、誰か出てきたぞ」



 中央の大きな武舞台を眺めていたヨウダイ。一人の獣人がそこに走ってきたのに気づく。




「全!国!民!の、皆さん!

 いよいよ、この日がやってまいりました!!!!」




「あ、ユーリさん」

「え?……あ、宿にアレンを呼びに来た人か」

「うん」




「最高の戦いが、見たいかー!!!!」


「「「「「うおおおおお!!!!!」」」」


「最強が誰か、知りたいかー!!!!」


「「「「「うおおおおお!!!!!」」」」


「歴史の証人に、なりたいかー!!!!」


「「「「「うおおおおお!!!!!」」」」



 ユーリの煽りに、大歓声で応える観客たち。



「ねえ、あの人の声、上から聞こえるんだけど、これも魔道具なのかしら?」

「たぶん」

「あの人、あんなテンション高い人だったんだな」

「ね。俺が説明を受けたときは、むしろ丁寧で真面目な人って印象だったんだけど」

『いや、あれはむしろ、仕事だと割り切ってる感じ……哀しいかな、そういうのは俺、分かっちまうんだ。生前を思い出すぜ』

『そ、そうなんだ……』



 裕也のコメントを肯定するかのように、ユーリはここでピタッと口調を変えて言った。


「さて、バトルフェスタ開始前に、ご確認。


 本選のルールは例年通り、武器防具の使用可の決闘となります。ただし殺人は不可、対戦相手や観客を殺めてしまった選手はその場で失格となり、今後永久にバトルフェスタへの出場権がはく奪されます。


 勝利条件は、審判による戦闘不能判断または、相手の降参です。

 武舞台も一応設置しておりますが、こちらは便宜上の物。本選では場外敗けはございません。ただし原則として武舞台上で戦闘を行うよう、選手の皆様にはご協力をお願いいたします。


 本日この開幕式の後、早速、本選第一回戦となる全八試合を順に行います。

 時間制限もございませんので、一日当たりの試合数は試合経過に左右されますが、ご容赦を。


 第一回戦終了までは、連日試合を行います。

 第二回戦の日程は、第一回戦の最終試合終了日のおよそ一週間後を予定しており、終了時に詳細を決定いたします」



 ここまでは例年通りのルール説明で、新聞等でも取り上げられており、特に目新しい情報はない。


「それともう一点、この場を借りてご報告を。


 この度、鹿印魔道具店様より、委員会に対して多額のスポンサー料を頂いております。この声量増幅装置も鹿印魔道具店様の提供です。この場を借りて、厚くお礼申し上げます」


 一礼。


 そしてまた実況口調に戻り、


「さあ、今大会観戦の新・装置をお披露目しましょう!!!

 あちらの四角い板をご覧ください!!!」



 スタジアム席の情報に、大きな長方形の黒い板がぶら下げてある。



「その名も、遠隔投影機!!

 こちらも鹿印魔道具店様の新製品となっております!!!」



 ユーリが叫ぶと同時に、板にユーリの顔が大きく映し出された。

 これには会場が騒めき、アレンの近くの観客たちも、


「すげえ」

「あれは何?武舞台の様子が板の中で動いているわ」


 と驚きを隠せない様子だ。


「こちらは、ある場所の様子を記録して、別の場所に映し出す装置です。

 御覧の通り、大きく拡大することもできます。

 この装置で、戦いの全貌を全客席の皆様にご覧いただけます!」


「おお、こいつはいいや!!」

「さすが鹿印魔道具店ね!!」



 アレンたちは、内心苦い思いをしながら観客たちの反応を見るも、顔には出さないよう平静を装う。



「さて、前置きはこのくらいにしまして!!

 いよいよ、選手の皆様に入場いただきましょう!!!」



「うおおお!!!」

「待ってました!!!」

「レオン王!」

「ファスリィオさん!」



「第一試合!


 初出場、その剛腕健脚でパワーとスピードの双方を兼ね備えたバランス型!

 更に予選では、爪を活かしての戦闘で数々の猛者を屠ってきました。

 熊人、ベアード!!!」


 ユーリの前口上にまたも大きな歓声が沸くと、それを浴びながらベアードと呼ばれた熊人が入場してくる。


「対するは!!

 今大会一のビッグサイズ!!前大会では運悪くも二次予選でレオン王に当たり敗れ去りましたが、満を持しての本選出場!!

 象人として、ラーヴァタ様の地位を狙います!!エレファン選手!!!」



 ユーリの選手紹介に呼応して、会場からも声援や野次が飛び交う。


「ベアード~、お前の爪戦法、期待してるぜ!!」

「うお、エレファンの奴、前回よりでっかくなってねえか!?今回は行けるんじゃね?」





「第二試合!

 やはり獅子人族は強い!レオン王にどれだけ肉薄できるのか、獅子人、リョウガ選手!


 しかしそこに立ち塞がる厚い壁!!

 レオン王と並び、四獣傑の古参!!!もはやこの国で知らぬ者はいないでしょう、象人ラーヴァタ選手!!」


「ここはラーヴァタだろ、あの人には勝てねえ!」

「あのリョウガって人、何だか目が怖いわ」

「おーい、リョウガ、俺は応援してるぞー」





「第三試合!

 前大会で、まさに彗星のように現れた新鋭!その速さは獣人界随一で、瞬く間に四獣傑にまで上り詰めました!チーター人、ファスリィオ選手!!!」


 そして四獣傑に挑むのは、同じく速さとキック力が自慢!!地面を滑るように高速移動して相手を翻弄、強烈な蹴り技を見舞う!!エミュー人、ボエミュー選手!!」


「お、ボエミューだ。あいつの脚力は半端ねえぞ」

「いや、脚力ならファスリィオ様に勝てるわけねえって。あの人、見えねえんだよ」

「スピード対決だな!」





「第四試合!

 なんと、なんと、まさかの猿人だ!!!

 隣国マシナを追われ、王都の道場を荒らしに荒らした猿人、ヒヒマ選手!

 種族の歴史がここで変わるのか!!!


 しかし迎え撃つは我らが委員長、ノエル選手!

 内力リソース操作は暴狼人族に一日の長あり、中でもトップクラスの実力!

 今日はどんな戦いで魅せてくれるのか!!」


「おいおい、猿人がこんなところに来るのかよ」

「いや、あいつ、最近ホントに噂だぞ。虎人のところの師範代も負けたって」

「マジか、都内最大規模の道場じゃねえか」

「いやでも、ノエル様にはさすがに勝てねえよ」

「ノエル様~、猿人なんぞ、のしちゃってくださーい!!」




「第五試合!

 初登場、パワー型の肉体を持ちながら、クレバーな頭脳と多彩な水魔法で相手を翻弄するカバ人、エルキア選手!


 対するは、今大会最年長、御年百五十三歳の亀人、タトス選手!

 水魔法を主軸に相手を絡めとる戦法、その老獪さに多くの若人が心を折られてきました!


 奇しくも似た者同士の対決、軍配が下るのは若さか経験か!?」


「おっ、こいつは面白いな!タイプも能力も同じような二人の戦いだ!」

「どっちも水魔法がすげえらしいぞ、派手な戦い期待してるぜー!!」




「第六試合!

 孤高の剣豪、この方も有名人だ、虎人ヒョウゴ選手!

 磨き抜かれた剣技、もはやこの人が名刀そのもの!!


 対するは今回本選の紅一点、ピューマ人のピュー選手!

 キュートな笑顔と魅惑のボディに、男性ファン多数!!!

 ですがもちろん、それだけで出られるほどバトルフェスタは甘くない!柔らかな身体で相手の力を跳ね返すカウンターを武器に、男共を蹴散らしてきた!」


「ヒョウゴだ、最近見なかったけど、どこ行ってたんだ!?」

「何でも、北の砂漠で虫人相手に修行してたらしいぞ」

「マジか、あいつら硬いし、動きが意味分からんからな!戦法にどんなバリエーションが増えてるか、楽しみだな!」

「「「「「「ピューちゃ~ん、今日もかわいいよーーー!!!」」」」」

「うお、うるせっ!」





「第七試合!

 サイ人道場期待の星、リノリア選手!

 かのリノス師範の息子、どんな英才教育を施されてきたのか!?

 リノリア選手、何と今までまだ固有技を見せておりません!本選でその真の力が明らかになるのでしょうか!?



 対するは四獣傑のオウギワシ人、ギーグ選手!

 圧倒的な飛行制御から繰り出される猛攻に耐えられる者などいない!」


「ここも注目カードだな」

「ああ。リノリアは既に、父親のリノスを超えたって噂も聞くし、四獣傑相手にどこまでやれるか、楽しみだぜ」




「そして第八試合!

 甘いマスクと華麗なる武技は、女性のハートを鷲掴み、いや孔雀掴み!孔雀人、ピジャック選手!



 そして迎え撃つは、このお方!

 前大会覇者にして現サバンドール国王、説明など不要の絶対王者!!

 獅子人・レオン王!!!」


「せーの!」

「「「ピジャックさん、がんばって~~~!!!」

「おーおー、女子共が騒いでるなあ」

「いやあでも正直、相手が悪いでしょ」

「ああ、ここはまあレオン様の勝ちだろうなあ」





 かくして、バトルフェスタ本選の出場者が出揃った。


「ヒヒマは第四試合か」


 アレンの呟きにヨウダイが答える。


「ああ。四獣傑が順当に勝ち上がるとすると、二回戦でファスリィオさん、三回戦でラーヴァタさんに当たるだろうな。そして四回戦、決勝で、レオン王かギーグさんのどっちか」

「でも、一回戦の相手も有名人よね」

「うん、俺も会ったノエルさん。まずはここを勝ち上がらないとね」



 本選のルールは、武舞台上での決闘、武器は使用可、殺人は不可。

 勝利条件は、審判による相手の戦闘不能判断、相手の降参、相手の場外、のいずれかだ。

 シンプルなルールなのは、互いの地力での戦いを促すためだろう。



 選手一同は、第一回戦に向けて、いったん控室に戻っていく。


 最後に実況のユーリだけが武舞台に残った。



「え~、先ほどの発言に関しまして、一点訂正させていただきます。


 ピュー選手ご紹介の際、「今回本選の紅一点」と述べましたが、ご存じラーヴァタ様も女性であられますので、「紅一点」という表現は不適切でございました。

 お詫びして訂正申し上げます」


 頭を下げるユーリに野次が飛ぶ。


「はは、ボスに怒られたかー?」

「そうだな、自分のカミさんを男呼ばわりされてんだもんなあ」

「いやあ、俺は違和感なく流してたぞーー!!」

「おめえそれ、本人に聞こえるぞ~」

「あーあ、こいつ、終わったな。四獣傑と大会トップを敵に回しちまった」

「げっ、そうか、やべえ……」



 一方の選手控室。

 選手には個別の控室が与えられているが、共有スペースも設けられており、各々好きな場所で出番を待っている。

 現在共有スペースにいるのは、四獣傑の四人と、大会委員長のノエル、犀人のリノリア、象亀人のタトス。


 会場から聞こえてくる歓声にやや不服顔なのは、現在話題になっている象人だ。


「……まったく、失礼なことですよ」


 憤慨するラーヴァタをレオンが取りなす。


「まあまあ、みんなテンション上がってんだ、大目に見てやってくれ」

「まあ、慣れてますけどね」

「ほら、ノエルも、こんなとき嫁さんの機嫌を取るのが旦那の仕事だろ」

「ええ、その通りですが、そんな前置きをされると少々やり辛いですよ」


 ノエルはご指名にやや苦笑しながら立ち上がる。


「ラーヴァ、僕にとってはあなたは世界一可愛い女性ですよ。それでは不満ですか?」

「ちょ、こんなところで、何言ってるんですか……」


 顔を赤らめるラーヴァタ。


「おうおう、昔は女傑としてブイブイ言わせてたラーヴァタだが、こうなっちゃあ形無しだな」

「レオン王、昔の話はしない約束ですよ」

「えっ、ラーヴァタさん、昔はやんちゃしてたんすか?」

「おう、そりゃあ……」

「ファスリィオ、それは聞いてはいけませんよ!!」

「……レオンさん、また後で詳しく」

「ダメですよ!」

「僕も気になるなあ」

「リノリア君まで!?」

「ほっほっ、今夜の酒の肴は決まったかの」

「おっ、タトス爺、良いこと言うじゃねえか! 今日の一回戦が終わったら、本選出場者で飲みに行くか」

「レオン王、勝手に決めないでください!」

「ふっふっふ、王様の俺が主催の飲み会だ、皆断れまい」

「いやあ、来ない奴もきっといるッスよ。俺ら、恨みも買ってますから」

「ま、エレファンやリョウガ辺りは来ねえだろうな。俺ら、目の敵にされてるし。そこまで無理強いするつもりはねえよ」



 ここで、他愛無い会話を静観していたギーグが初めて口を開く。


「あの猿人は、来ますかね?」


 その一言に、レオン王は一瞬真面目な顔をする。


「どうだかな。

 俺としては、政治的な話抜きで、一回呑んでみてえんだが」



 その後、大会委員長であるユーリの挨拶や、現国王レオンの挨拶などが続く。


 そして遂に、観客待望のアナウンスが鳴り響いた。



「第一回戦の準備が整いました。

 ベアード選手は南口、エレファン選手は北口にお越しください」

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