第3章 第6話「ヨウダイ、得た手応え」
猿人の兵士二人は、四方向からの通路が重なる交差点となる、やや開けた場所で休憩していた。
ヨウダイとドラコが先行して接近。
ソニアとレナは、猿人達のターゲットにならないよう少し時間差で追いかけた。
「誰だ!」
「何だ、お前ら!?止まれ!」
猿人二人はヨウダイとドラコに気付くと、威嚇制止の声をあげる。しかしヨウダイたちは、それを無視して近づく。
「ちくしょう!」
猿人達は慌ててスタンブレードを抜いた。
ヨウダイは剣で、ドラコは素手でそれぞれスタンブレードを受け止める。
「こいつら、俺たちの装備を奪ったな!電撃が効かない!」
猿人達の防電服は、上着上下、手袋、帽子。それにより頭、身体、手を守る仕様となっていた。ヨウダイたちは守られている部分で攻撃を受けるよう注意しながら戦闘を進める。
「ドラコ!俺は左手の通路に向かう!」
「承知!」
ヨウダイはドラコに叫ぶと、戦闘を継続しながら、徐々に左側へと移動。ドラコはそれに合わせて、反対の右側の通路へと移動していく。
こうして、二人は敵をうまく分断することに成功した。そしてレナは左へ、ソニアは右へ。
最後にアレン、タイガ、ナタリーは、誰もいなくなった交差点を直進で走破していく。
「みんな、無事でいてくれよ……!」
アレンは歯を食いしばって呟いた。
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ある程度進んだところで、ヨウダイは移動をやめた。
「ここまでくれば大丈夫だろ」
「貴様!何者だ!パジとボノはどうした!」
追いかけてきた猿人兵の片割れが叫ぶ。ぼやく相方を窘めていた方のようだ。
「外にいた見張りのことか?殺しちゃいねえよ、少し眠ってもらっただけだ。装備は借りてるぜ」
「……野蛮な獣人の輩とは違うようだな。何にしても、侵入者を放置してはおけん!」
そう言って、猿人兵はスタンブレードを構えた。
「……特に恨みはないが、こっちにも事情があってね。邪魔されちゃあ困るのさ」
ヨウダイも、改めて剣を構え直す。
「ふっ!」
最初に仕掛けたのは猿人兵。
シンプルに直進して、片手でスタンブレードを振り下ろす。
「はっ!」
それを両手で持った剣で受け止めるヨウダイ。
猿人兵はスタンブレードを軽々と振り回し、上下左右、様々な角度から打ち込みを続ける。
「くそっ……」
一つ一つ冷静に捌いていくヨウダイだが、相手の攻撃は早く、また表情にも余裕がある雰囲気で、なかなか隙を見出せなかった。
(こいつ……確かに強い。腕力では負けてるか)
ヨウダイは、右から掬うように放たれた攻撃に、強めに剣を当てる。反動で少しスタンブレードが止まった隙に、やや後退して距離を取った。
「ああ、俺もまだまだだな……。
これでも鍛錬は積んでるんだが、こんな一般兵に手こずる程度だなんて。
ちょっと凹むぜ」
ぼやきながら、ヨウダイは剣を鞘に閉まって通路の脇に投げ、代わりに背中から棒を取り出した。
昨日に棒猿から奪ったものであり、先には短剣が括り付けられている。短めの槍のような形状だ。
「いきなりなんで少々不安はあるが……試させてもらうよ」
そう言いながら、短剣の柄を左手で、棒の部分を右手で握り、腰を落とす。
「……槍か?それにしては中途半端な」
「まあ、俺もここいらでもう一段階、強くなりたいんでね!」
そう叫び、相手に突きを仕掛けるヨウダイ。
「おっと!」
スタンブレードで受け止める猿人兵。
ヨウダイは突きを連続する。
剣と槍の最大の違いは、そのリーチ。
通常の槍には及ばないとはいえ、柄の部分を長く持ち替えることで先程より伸びたリーチに、今度は猿人兵の方が攻めあぐねてしまう。
「よっ!ほっ!そいや!
槍は得意なんだよ!腹立つことにな!」
「得意なのに腹が立つだと!意味が分からん!」
お互い叫びながらも、攻防の手を緩めることはない。
「ええい。うっとおしい!」
猿人兵は、短剣の刃の部分をスタンブレードで力任せに打ち付けると、反対側から蹴りを繰り出す。しかし、
「甘いね!」
ヨウダイは槍の柄としている棒部分で、相手の蹴り足の脛部分を強打。
「ぐああ!」
蹴りの勢いも利用して繰り出されたその迎撃は、かなりの威力で相手の足にダメージを与えた。
「隙あり!」
短剣部分、槍の先端を、左上から袈裟懸けに振り下ろす。
「ぐう……!」
猿人兵は、何とか自分と槍との間にスタンブレードを挟ませる。
スタンブレードと棒の上端部分が交わり、両者は取っ組み合う形で膠着。ヨウダイは、左手で短剣の柄部分を、右手で棒部分を握り、相手に押し負けないようにする。しかし、
「……力はこちらが上のようだな」
猿人兵が言い放ちながら更に力を込める。徐々に、ヨウダイの顔面に迫りくるスタンブレードの刃。
ところがヨウダイは、にやりと笑った。
「だから、甘いって」
「何っ!?」
ヨウダイは短剣の柄と棒を分離させ、スタンブレードを自身の左側へ受け流す。
同時に自身は右側へ重心を移動。
猿人兵は、急にスタンブレードの手ごたえがなくなり、バランスを大きく崩してしまう。
ヨウダイはそのまま猿人兵の左側を抜け、すれ違いざまに左の脇腹を短剣で切りつける。
それも、手首の返しで、一瞬で数回の斬撃を見舞った。
「くっ……」
溜まらず膝をつき、右手で左脇腹を抑える猿人兵。
「真星流・小連星だ。結構なダメージだろう。
勝負はついた。諦めて降伏しな」
ヨウダイは猿人兵に言い放つ。
「……わかった。俺の負けだ」
猿人兵が言った。
痛みに耐えているのか、声が掠れている。
「いいだろう。殺しはしない。
だが、悪いが気絶しててもらうぜ」
ヨウダイは棒で、猿人兵の後頭部を強打した。
猿人兵は木を失って倒れてしまう。
(槍と剣の融合……いや、槍の技術を剣に応用、か。
そんなこと聞いたこともねえが、やってみるのも悪くないかもな)
先の戦闘に、確かな手ごたえを感じたヨウダイ。
そして、やや大きな声で叫ぶ。
「……レナちゃん!もう大丈夫だ、来てくれ!」
「……はい!」
当初から、レナやソニアは回復役に徹し、戦闘時はなるべく身を隠すよう打ち合わせてあったが、安全を確認してレナが物陰から現れた。
「お疲れ様です! ヨウダイ先輩、すっごく強いんですね!」
「おう、ありがとさん。
それより、こいつに回復魔法をかけてやってくれないか?」
「えっ、この人に!?いいんですか?」
「ああ。別にこいつに恨みがあるわけじゃないし、このまま死んじまったら夢見が悪いだろ?」
「……わかりました。【
レナが回復魔法を唱えると、猿人兵の脇腹から流れていた血が止まった。
「おー、さすがだね。
さて、一応、縛っておくかね」
「でも、ロープないですよ?」
「そうだな……そういえば、テーザー銃?ってのは紐が伸びるって言ってたな」
「えっ、危なくないですか?」
「でも、一度使ってみておいた方が安心だろ。とりあえず縛るだけだし」
そう言ってヨウダイは、猿人兵の腰辺りを探った。
「これだこれだ。確か入口では、このボタンを押すと発射って言ってたな。で、上側が電気って奴か。
今はとりあえず発射だけ。レナちゃん、ちょっと離れてて」
そう言うと、誰もいない方へ銃口を向け、引き金を引くヨウダイ。バシュッ、と音がして、金属製のロープが勢いよく飛んでいく。
「おー、飛んだ飛んだ」
十メートルほど飛んで先端が地面に落ちたのを確認すると、手元を手繰り寄せてロープを回収。そのまま猿人兵を縛り付けた。
「あえて、時間をかければ自力で解ける結び方にしといてやるか。このまま魔物に襲われたり、最悪餓死されても困るしな。
さてレナちゃん。アレンたちを追おう」
「はい!」
ヨウダイたちは来た道を引き返していく。駆けながら、レナが問う。
「ドラコ先輩は、大丈夫でしょうか?」
「ああ、あいつは強いからな。心配いらんだろ」
「珍しいですね、ヨウダイ先輩が誰かを「強い」って褒めるの」
「もちろん、俺の次にってことだからね!」
「ふふふ」
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さて、時は少し遡って。
ドラコはヨウダイたちとは反対側に移動し、もう一人の猿人兵を陽動していた。
「おら!怪しい奴!逃がさねえぞ!」
「……ふん。ヨウダイの奴、ちゃっかり強い方を取っていったな」
そう呟きながら、スタンブレードの攻撃を躱し、時には籠手で受け止める。
交差点から十分距離を取れたことを確認して、立ち止まる。進んできた方向に対し、猿人兵が奥側、ドラコが手前側だ。
「さて、面倒だし、一気に決めるか……」
ドラコは小声で言うと、叫ぶ。
「ソニア!作戦変更だ!ちょっと来てくれ!」
しばらくすると、ソニアが顔を出して、近づいてくる。
「ちょっと!何なのよ!?」
文句を言いながら、ドラコのところまで慎重に小走りするソニア。
「もう一人いたんだな!どっちも逃がさねえぞ!」
叫ぶ猿人兵。
「……すまない」
そう言うとドラコは、ソニアの首の後ろ側に手刀を打ち込む。
ソニアは声を上げる間もなく、気を失ってしまった。
ドラコは倒れかけたソニアを受け止め、通路の壁にもたれかけさせた。
「何だなんだ、仲間割れか!?」
「見られて困る秘密があるんでね。
……【
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