第3章 第5話「まさかの電気文明」
『電気だって!?』
裕也が叫んだ。
「あのう、電気って何ですか?」
レナがおずおずと尋ねる。
「わりい、俺も知らねえや」
「同じく」
ヨウダイとドラコにとっても初めて聞く言葉であった。
『裕也、知ってるの?』
『ああ。前の世界では、社会としてメインで利用していたエネルギーだ』
ナタリーが答える。
「すまないが、私にも分からない。
ただ、奴らはその「電気」とやらを扱い始めて、武器が格段に強くなった。
得体のしれない強い痺れが来て、弱い者なら気絶してしまうほどだ」
『……むしろ気絶しない奴がいることの方が驚きだ。アレン、銃はあるか聞いてもらえるか?』
『ジュウ?』
『ああ。鉄砲でもいいぞ』
『テッポウ?』
訳が分からないままであったが、アレンはナタリーに問いかける。
「ナタリーさん。ジュウとか、テッポウって武器はありますか?」
「……いや、私は知らないが。どんな武器だ?」
「いえ、ないならいいんです」
「アレン、何か心当たりがあるのか?」
ヨウダイも尋ねてくる。
「いや、昔ちょっと聞いたことがある武器でね。詳しくは俺も知らないんだけど」
「?そうなのか?変な奴だな」
「あはは、あんまり気にしないで」
アレンは適当にその場を誤魔化した。
しかし裕也は、
『銃はない……ということは火薬はあまり発達していないのか?火力発電ではなさそうだ。原子力もないだろう。水力か風力発電か?』
何やらぶつぶつと独り言を言っている。
「と、とにかく」
アレンが言う。
「その新しい武器には注意、ってことですね?」
「ああ。とにかく当たらないことだ」
そこで裕也が言う。
『おそらく前の世界で言うスタンガンのような武器があるんだろう。
その場合、自分への感電が怖いから、おそらく自身は電気を無効にする装備を身に着けている可能性が高い。それを奪えるといいかもな』
アレンは裕也の意見を伝えた。
「そうかもな。じゃあ、作戦の序盤はそれで」
ヨウダイも同意する。
「あとは、敵の人数や配置次第だな。行ってから柔軟に動くしかないだろう。
そろそろ行くぞ。戦闘は免れんから、気付かれないうちに先手を取りたい。このまま身を隠して進む」
ナタリーがまとめ、一行は進行を再開しようとした。
しかし、ソニアはその場に立ったままである。何かを考えているようだった。
「……ソニア?」
アレンが声をかけると、
「あっ、ごめん。ちょっと考えごとしちゃって。すぐ行くわ」
ソニアは小走りで皆を追いかけた。
少し進むと、昨日よりも規模が大きめな遺跡が見えてきる。
森は遺跡の手前で終わっており、入口らしきところまでは五十メートルほど。見張りの猿人族が二人立っているのが確認できる。
「ナタリーさん、遺跡への入口はあそこだけなんですか?」
「ああ。まずはあの見張りを無効化したいところだ……」
ヨウダイが言う。
「だけど、ここから遺跡までは身を隠すところがない。あの二人に見つからずに攻撃するのは難しいぜ」
「ソニアの睡眠魔法はどうだ」
ドラコがソニアを見る。
「……距離が遠すぎるわ。ただ、これが使えないかしら?」
ソニアは荷物袋から小瓶を取り出した。中には何やら粉が入っている。
「これ、何だい?」
アレンがソニアに尋ねると、
「眠り鬼花の花粉。
麻酔に使えないかと思って、取っておいたの。みんなは吸い込まないでね」
昨日戦闘した魔物の花粉でだ。
ナタリーが言う。
「こいつはかなり強力だから、風向き次第では使えるかもしれん」
「それなら、俺が風魔法で飛ばしてみます」
アレンは見張りに見つからないよう注意しながら森から顔を出した。
「【
花粉が飛び散りすぎないよう、風魔法は最弱のものを選択。
すぐに瓶の蓋を開け、中の粉を風に乗せた。
しばらくすると、見張りの膝が崩れ落ち、二人とも倒れ込むのが確認できた。
「よし!」
アレンが小さく叫ぶ。
「やったな」
ナタリーもしてやったりの表情だ。
「すごいね、ソニア。さっき、こんな作戦を考えてたんだ」
「え、ええ。まあね」
「おい、目を覚まさないうちに早く行こうぜ」
アレンたちは、他に仲間がいないか注意しながら、倒れ込んだ見張りの下へ駆け寄る。
見張りは二人とも熟睡していた。
「すげえ効き目だな」
「装備を剥ぐのだろう。早くしよう」
早速ドラコが服を脱がしにかかる。
見張り二人の上着・ズボンと、剣のような武器、銃のような武器を回収し、見張り自体は縄で縛ってしまった。
「これ、何だろう?」
銃のような武器を見てアレンが首をかしげる。
「最近の猿人族がよく持っている。
仕組みはよくわからんが、ここから金属の紐が矢のように飛んでくるんだ。
そしてその紐に当たると、痺れて痛い、という武器のようだ」
ナタリーが答える。
「そっちの剣も、当たるだけで痛いから、気を付けろ」
『スタンブレードにテーザー銃か……。服も、やはり防電加工が施されているな』
裕也が呟いた。
とりあえず二人分の装備を手に入れた上で、
戦闘力という面でどうしても劣るソニアとレナに、防電服をあてがいたいのが山々だったが、サイズが合わなかったのである。
結局、防電服はドラコとヨウダイが着ることになった。
戦闘力の高い二人が電気で気絶させられてしまうと、
そして、スタンブレードとテーザー銃の一セットをアレンが、スタンブレードをソニアが、テーザー銃をレナが持つことにした。
そうして、遺跡の中に侵入する。
慎重に歩を進めると、猿人達の話し声が聞こえてきた。
「まったく、何だってこんな遺跡に俺らが来なきゃならねえんすかねえ?」
「上からの命令だ、仕方ないだろうよ。
古代文明の技術を少しでも解明出来たら、俺たちも利用できるかもしれん。サバンドール国の野蛮人共は、遺跡になんぞ全く興味がないからな。
うまくいけば、マシナ国が優位に立つ未来が訪れるかもしれん」
「ま、言いたいことは分かりますけどね。正直、遺跡頼みの政治ってどうかと思いますよ」
「それは言うな。何にせよ、仕事は仕事だ。つまらんこともたまにはあるさ。ほら、気を抜いてるのをヒヒマさんに見つかったら大変だぞ」
「ちげえねえす。あの人、猿人のはずなのに鬼つええっすからね」
「ああ。あの若さで第二軍長を務めるほどだからな。
そんな人を寄越したってのにも、国の本気が見て取れるな」
「確かに」
今のところ、二人は周囲にそれほど注意を払っているわけではなく、物陰から様子を伺うアレンたちにも気が付いた様子はない。
小声で相談するアレン一行。
「ごめん、眠り粉はさっきので全部だ。どうしようか?」
「俺とヨウダイで一人ずつ引き寄せるから、その隙に他の皆は前進してくれ」
ドラコが提案する。
「……じゃあ、三手に別れよう。
ドラコとソニア、ヨウダイとレナで二人をおびき寄せてもらって、俺とナタリーさん、タイガで突破。ソニアとレナは戦闘には参加しなくていいから、万一の時の回復役だ」
「アレンはどうするのよ」
「俺はナタリーさんたちと一緒だから、危険な目にあう可能性はその分低いと思うよ。だから、君たちはなるべく速やかに俺らを追いかけてくれ」
「あいよ。レナちゃん、俺が守るから、心配しないでね」
「ヨウダイ先輩!頼りにしてます!」
「あんたも、ちゃんと守ってよね」
「ああ、分かっている」
そうして、ヨウダイとドラコはわざと敵に見つかるように行動を開始した。
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