第2章 第14話「転移、そして、、、」
強盗事件から、また一ヶ月が過ぎた。
あの日の強盗は、裕也との戦闘の直後に、ジャンさんが通報した衛兵たちに呆気なく捕まった。
その後、特に大きな事件はなく、穏やかながらもハリのある、充実した日常が続く。レナもようやく学校生活に慣れ始め、クラスメイトとも打ち解けたようである。
また、入れ替わりに関しても、あれ以降はまだ起こっていない。
『やっぱり、魔力の使い過ぎが原因と思うぞ』
『わかったよ。気を付ける』
そんな会話の下、授業や修行を続けてきた。
今のところ、魔力を大量に消費する機会はなかっため、結局入れ替わりが起こる条件は検証できていない。
『この前みたいに入れ替わりがどうしようもない状況になっても、頼むからよろしくな」
『ああ、分かってるよ。
ほら、先頭の集団が移動するみたいだぞ』
この日の冒険者学校の生徒たちは、また課外演習。
先生方の連れ添いのもと、リッツの街近くの遺跡で、採集の演習を行っていた。
「採集は地味だが、重要な仕事だぞ。それに稼ぎも手堅いからな。受けられるなら受けた方がいい依頼だ」
ビスタが歩きながら語る。
一方マノン先生が、遺跡の説明をしてくれる。
「各地にあるこのような遺跡は、太古の昔にあった古代文明の建造物と言われています。
遺跡からは、稀に今も使える
中には現代の技術では解析困難な機構のものもあり、市場で高額がつくこともしばしばです。
実は、皆さんが演習で使用する転送装置も、発掘された
それを聞くと、何名かの者は途端に色めき立つ。
「よし、俺も
アレンは、ヨウダイが横で叫ぶのを聞いて苦笑した。
「とは言え、この遺跡は既に調査し尽くされており、もう貴重なものは眠っていないでしょう」
マノン先生の言葉に、がくりと脱力するヨウダイなど。
「だが、遺跡の建物は、良質な金属でできていてな。少量でも、鉄などに混ぜれば強度が格段に上がる。今回は製鋼所からの依頼だ。ネジや釘のようなものがあったら回収すること」
ビスタの言葉に、生徒たちは黙々と地面を探し始める。
遺跡は広く、まもなくすると、生徒たちは
アレンたちも、とある部屋の中を探索中だ。しかし、
「……見つからんぞ!」
ヨウダイが叫ぶ。
「……そうなんだよな。みんな、どう?」
アレンが問いかけるも、
「ないわね」「見つからないわ」「同じく」
他の面々も、手応えはないようだ。
「タイガは?」
「うー、においがしないものを見つけるの、むずかしい……」
「はは、そうだったね。
みんな、ここは採掘されつくしたのかもしれない。あっちの部屋に行ってみようよ」
アレンが促し、皆もそれに従った。
「ここにしてみよう」
適宜一部屋を選び、中へ侵入。ドアはない。
すると、
「ビィーーッ、ビィーーッ、ビィーーッ」
部屋のどこかで急に音が鳴り、中央にある装置の赤いランプが点滅し始めた。
「警告。警告。
起動キーが確認されたため、装置を起動。転送を開始します。該当しない者は、直ちに退室してください」
「わっ、誰だ!」
どこからか抑揚のない声が聞こえてくる。
訳もわからず、部屋の中でジタバタするアレン一行。
だんだんと、サイレンと点滅の感覚が短くなっていく。
「ピッ、ピッ、ピッ……ピッピッピ……ピピピピピ……
NJ76582地点の装置とリンクを確認。
転送を開始します。転送を開始します」
同時に、部屋全体が震え出した。
「地震か!?」
「いいえ、この部屋が揺れているんじゃないの!?」
「くそ、地面が震えて動けない!」
点滅と揺れはどんどん激しくなっていく。
揺れが限界に達したと思われた時、赤い光がアレンたちを覆う。
「ピ――――――――
エラー発生。エラー発生。転送ポイントにズレが生じました。
コンシェルジュ機能をオンにします」
そんな声が聞こえたのを最後に、アレンの視界は赤色に埋め尽くされた。
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「……いてて。
みんな、大丈夫!?」
光が収まり、軽い頭痛を感じながらも、アレンは声をかける。
「大丈夫よ」「俺も」
「問題ない」「わん」
「よかった、全員無事だ。
……ここは?」
辺りは一面深い森だった。じめじめとした空気が肌にまとわりついてくる。
『アルトリアの森は全体的に針葉樹林が多かったが、ここは熱帯雨林だな』
『熱帯?』
耳慣れない単語にアレンが戸惑っていると、
「おい!あれを見ろよ!」
ヨウダイが叫ぶ。アレンも目を凝らして、それを確認した。
「緑の、
以前の演習時に見た時は仄かに黄色く光っていた
しばし、壁に圧倒されるアレンたち。
そこへ、
「何をしている!」
突然、何者かに声をかけられた。
声の主は、歩きながらだんだんと近づいてくる。
その姿にアレンたちは、先ほど以上の驚愕を覚える。
「人間じゃない……」
その人物は、タイガに似た、青い狼の顔をしていた。
【第2章 完】
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