第2章 第12話「転入生は誰?」
フォンテーヌ地方での課外演習から、半年ほどが過ぎた。
アレンはすっかり冒険者学校の生活に慣れ、日々授業や修行に明け暮れていた。
アレン、ソニア、ヨウダイ、ドラコの
今朝も教室に入って席に来ると、ヨウダイが話しかけてくる。
「よう、アレン。知ってるか?」
「おはよう。えーと、何を?」
「今日はまた転入生が来るってよ」
「へえ、そうなんだ」
「女の子らしいぞ」
ヨウダイ曰く、クラスメイトの一人が先日、職員室にて見知らぬ女子を見かけたらしい。
「どんな子だろうね」
「かわいいって話だぜ」
「……ふん、男は単純ね」
ソニアが話に加わる。
「何だ、お前らだって、イケメンの転入生って噂が流れたらテンション上がるだろうが」
「うっ、それはまあ、否定はしないけど」
「ははは、まだ噂だし、楽しみに待っておこうよ」
そんな話をしていると、ビスタが教室に入ってきた。
「はい、お前ら、座れ~。
もう耳に挟んだ奴もいるようだが、今日からしばらく、生徒が一人増える。
さて、入ってくれ」
ビスタが促すと、ドアが開いて転入生が現れる。
後ろで束ねた長い金髪を揺らしながら、颯爽と教壇のところに歩く彼女。
アレンはその姿に驚いて、思わす声をあげた。
「レナ!?」
少女はアレンの方を見ると小さく手を振り、皆の前で話す。
「レナ・リベラです。カントナから来ました。私はまだ十四歳なのですが、<洗礼の儀>の日まで、ここで学ばせていただくことになりました。
短い間ですが、よろしくお願いします!」
そう言うと、レナは大きく頭を下げた。
「そういうわけだ。
聞いての通り、アレンとは同郷になる。と言うか幼馴染だな。期間限定というやや特殊な入学だが、みんな、仲良くしてやってくれ。席はアレンの後ろが良いだろう。
じゃあ、すぐに授業だ。俺はこれで失礼するが、すぐに教師が来るから、それまで待機」
ビスタは手短に告げると、その場を去っていった。
レナは言われた通りアレンの後ろに座る。聞きたいことは色々あったが、すぐにマノン先生が現れて授業が始まってしまった。
そうして昼休み。
レナの周りには人だかりができていた。
「<洗礼の儀>がまだなのに入学って、珍しいね」
「どの辺に住んでいるの?」
「今度の休み、街を紹介しようか?」
ほとんど男子である。
「あーあ、やっぱり男って単純。ああいうタイプに弱いんだから」
とはソニア。
『ソニアも負けず劣らず美人だと思うんだけど……』
『ま、勝気な性格だからな。
レナちゃんみたいな、守ってあげたくなるタイプではないな』
結局昼休みはあまり話すことができず、午後の授業が始まる。相互自習の時間だ。
アレンたちはいつものように四人で組んだが、アレンは皆に断りを入れた後、レナに声をかけた。
「レナ、よかったら俺たちと組まないかい」
「うん、ありがとう。助かるわ」
「いいよ。
ええと、彼らはソニア、ヨウダイ、ドラコ。今は一緒に
「よろしくね」「よろしく」「よろしく」
「みんな、こちらはレナ。僕とは幼馴染なんだ」
「よろしくお願いします」
簡単に自己紹介を終えた後、相互自習を始める一行。
冒険者学校初日のレナに、冒険技術や魔法の基本を教えることが中心となった。
そうして、そのまま放課後に突入。アレンはようやく、レナに事情を聞くことができた。ソニアたちも一緒である。
「それにしても、ビックリしたよ。どうしてここへ?」
「ビスタさんの計らいなの。
ほら、私、以前に一度倒れたでしょ。アレンが助けてくれたとき。あれね、魔力欠乏症のような症状だけど、どんな病気なのかは結局分からなかったじゃない?」
「ああ、そういえば、原因は不明だったのか。
確か、全身の脱力以外の異常はなくて、注射の針が刺さらなかったんだっけ?」
ソニアが口をはさむ。
「ちょっと待って、そんな症状、聞いたことないわよ。
魔力欠乏症なら、虚脱感に加えて、身体のあちこちに不調が発生するわ。発熱や咳、震えなどが代表的みたいよ」
「よく知ってますね。
でも結局、魔力欠乏症だったんです」
「え、でも、症状で考えるとおかしいんじゃないの?」
「ビスタさんが見当をつけてくれたの。私ね。おそらく治癒の
強い
私の場合は、治癒系の魔力が流出してしまっている状態。だから、虚脱感以外の症状が出なかったのよ。症状があったとしても、自分の魔力で治しちゃってたってこと」
「じゃあ、注射の針は?」
「それも、刺す傍から傷がふさがってしまっていたから、針が刺さらないように思えたみたい。とは言え魔力は過剰に消費している分、虚脱感だけが症状として現れたんだろう、って」
「なるほどなあ」
ヨウダイが問う。
「ええと、じゃあそれで何でここに来ることに?」
「今は、薬で魔力を増幅させて対処しているんです。
でもずっと薬に頼るわけにもいかないから、<洗礼の儀>を受ける前でも、ここで魔力の扱いを学んだらどうかって、ビスタさんが提案してくれて」
「そうなんだ。
……ちょっと待てよ。もしかして、僕が旅立ちを決めた時に、既にそれが決まってた?」
「えへへ。実は、そうなの」
「何だよ、だから別れの時あんなに素っ気なかったのか!」
「そのうち追いかけるってわかってたから。
もう少し早く来たかったんだけど、お父さんが私の旅支度に時間をかけすぎちゃって、遅くなっちゃった」
当時の自分の気持ちを思い出し、やや脱力するアレン。
「じゃあ、レナちゃんはアレンたちと同じく寮に住むのかい?」
ヨウダイが会話を続ける。
「いいえ、親戚がリッツにいるので、そちらにお世話になってます。
アレン、ジャンさん、覚えてる?」
「ああ、鉄を卸してくれてた」
レナの実家は金物屋であった。
アレンは、レナと共に遊んでいた時などに見かけた、店に材料の鉄などを売っていたおじさんとおばさんを思い出す。仲の良い夫婦だ。
「そう。今はジャンさんの家にいるわ。また遊びに来てね」
「うん、ぜひ。
ところで、期間限定っていうのは?」
「……ゆくゆくは教会に所属するからじゃないかな?」
そう推測するのはソニア。
「<洗礼の儀>で治癒の才能を認められた子は、教会でそれを学ぶことが多いわ」
「その通りです。
まだ確定ではないけれど、そうなる可能性が高いだろうって、ビスタさんが」
話をしているうちに、辺りも暗くなってくる、今日はこれで解散することに。
アレンはレナをジャンさんの金属店まで送る。
ジャンさん夫妻はアレンのこともよく覚えており、久しぶりの再会を喜んでくれた。
それからまた、二週間ほどが過ぎたある日。
その日は課外演習で、リッツ近くの森に来て、
普段は平和な森なのだが、
ムーリオ先生が説明する。
「今のあなたたちの実力なら、
生徒たちは
ムーリオ先生の言葉の通り、魔物自体に手こずることはなかった。
しかしアレンたちは、
「いてて……」
「すまなかった」
連携に失敗していた。
アレンがドラコの攻撃を足に受けてしまったのだ。
「いや、俺も動きを合わせられなかったのが悪いんだ」
「……軽い打撲だから、当て木をして、しばらく動かさなかったら大丈夫そうよ」
ソニアが診断する。
「あ、これくらいなら私、治せそうよ。【
レナはそう言って、治癒魔法をアレンにかけた。
「あ、治っていく……」
アレンの痛みはみるみるうちに引いていく。
「すごいや、レナ。ありがとう」
「どういたしまして!」
レナは笑顔でほほ笑んだ。
「……ちょっと、凹むな」
ソニアは軽く呟いたが、それに気づく者はいなかった。
一人を除いては。
『……』
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そんなちょっとした事故もあったが、演習は概ね無事終了。皆は解散し、アレンはレナを送っていくことにする。
少し歩くと、ジャン夫妻の鉱石店へと到着。馬が二頭、店先に止められている。
「お客さんみたいね」
「うん。流行っているようで何よりだ」
そんな会話をしていると、
「待て、強盗だ!」
店から飛び出してきたのは、頭巾で顔を隠した二人の男たち。
「キャッ!」
一人はレナと激しくぶつかるも、それを無視して馬に飛び乗る。
「宝石が!」
ジャンが叫ぶ。
鉱石として様々な素材を扱うジャンの店では、たまに採掘される希少価値の高い宝石類も取り扱っており、店の奥に厳重に保管されていた。
強盗たちの乗った馬が、改めてこちらに向かってくる。
「おら、来い!」
「ちょっと、やめて!」
うち一人が馬上から手を伸ばし、レナの腕を強引に引っ張って自分の前に乗せた。
片手で手綱を操りながらも、もう片方の手に持ったナイフをレナの喉元に当てる。
「おら、この娘に怪我させたくなかったら、衛兵には連絡しないことだ!」
強盗が叫ぶ。
馬二頭は、町の外に向かっていった。
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