第6話 やはりワシは天才じゃ!
紹介されキースは固まる。
(なにこの鳥?人の言葉を話すんですけど、語尾に「じゃ」とか年齢は爺ちゃんとタメなの?)
10歳のキースは状況が整理出来ないでいる。
もう考え出したら疑問だらけのこの生き物。
(この鳥を主従?え?え!えー?)
「ハワードだ、よろしくな!」
この変な色の鳥は羽を手のようにして握手を求めてくる。
「キース シュトロハイムです。キースと呼んでください」
キースは小さな手を差し伸べ握手を交わす。
幸せの鳥は青い鳥だという。しかし、この赤い鳥は何をもたらすのだろう、、
身長が約50cmと言ったところで他の鳥より肉付きが良く背は赤く、腹は白い。
見たところ空を羽ばたくには適さない体で2足歩行で「ペタペタ」と歩くその短い足では走力も皆無なのだろう。
目の上には 特徴的な眉の様な黄色い飾り羽があるのだ。こんな生き物は今まで見たことない。
しばし握手を交わしたまま2人は無言になる
キースは田舎者でこれまで話し相手になる存在が居なかったのでどう声をかけて良いかわからないでいる。
ハワードは自身にロックと言う息子がいたのだが親子の会話もなく子供の扱いなどしたことが無かったのだ。
そんな様子を気にもせずクラウザーシュトロハイム は、「キースあとは任せたぞ!」と伝えるとその席を離れた。
キースは爺ちゃんに振り向き反論を言おうとしたが何も思い浮かばず呼び止める事が叶わなかった。
キースはハワードに振り返る。
「なにしょっか?」ハワードに尋ねてみた。
キースの顔を見つめ、
「お前の使う魔法が見たい。クラウザーの奴はお前に魔術については習えと言っていた」
キースはしばし考えたが他にする事も思い浮かばずハワードの提案を受ける事にした。
「じゃ中庭に移動しよう」
キースがハワードの手を差し伸べていう。
「いや大丈夫だ。自分で歩ける」
中庭に向かうキースの後をペタペタとハワードが追いかけるのだった。
中庭。
「それじゃいくよ?風よ、球体となり、敵を撃て、【ウィンドボール】」
キースはワンドを振る。
「バシッ」っと音がなり大樹を揺らす。
表現するなら豪速球がキャッチャーミットに収まるその音に似ている。
それを眺めていたハワード
「ハワードは何か魔法は使えるの?」
「いや使えぬ」
そう言っていてもハワードは何か考えているようだ。
「魔法は魔力を感知してイメージし操作することで使う事が出来るようになるんだよ」
「僕も最初全然できなくて爺ちゃんと何年も修行して出来るようになったんだ」
ハワードは少し考えた後とんでもないことを提案してきた。
「その魔法、ワシに当てて見てくれんか?」
「えっ?危ないよ?」
「主は人でワシは魔獣じゃ、何をためらうことがある?主はワシの様に話す魔獣が出てきた時、まずは会話を試みるのか?」
ハワードの真剣な表情を見てキースは背筋が冷たくなった。
こんな小さく、飛べず、早くも動けそうに無い鳥に僕はなぜ恐怖する、、、
(僕は100回やって100回僕は勝つ自信がある)
「ワシは体を動かさねば理解出来ぬ体質での手合わせ願う」
ハワードは構えた、それは百戦錬磨の武人の様だった。
「わかったよ」
(僕も領主の孫で魔法だって使える、体の大きさだってこっちがおっきいんだ)
キースもワンドを構えた。
「いくよ!」
ハワードはその場から動かない。
まるで初撃を受けきるようだ。
「カモーン」
ハワードは羽を手のようにして振り挑発する
「風よ、球体となり、敵を撃て、【ウィンドボール】」
ハワードは逃げない、、「バシッ」っと被弾ハワードの胴に直撃し鳥の体躯が飛ばされる
「なるほどコレが魔法か」
ハワードは苦しそうに胴を押さえる。
「だ、大丈夫?」
あわてるキース、まさか何の策も無しに魔法を受けるなんて思わなかった。
駆け寄ろうと歩みだすが静止の意をみせるハワード「心配は無用だ!」
「ここからが本番じゃ!」
ハワードはキースに襲いかかる。
「魔法使いというものは間合いに入って攻撃されればタダの人となるぞ、貴様は魔獣にその侵入を許すのかあぁ!」ハワードが吠える
根っからの戦闘狂なのだろう、鳥の体になろうともその血、心が弾む。
今だせる力の全てを使い闘うこと、その事が自身を強くする。
対峙する相手を通して写す未来の可能性。
時には相手を模倣し、奪い、盗み、応用し自身の技へと昇華する。
襲い来るハワードにキースも身構えた。
体勢を引く構え ワンドを持った片方の手はハワードに照準を合わせ逃さない構えだ。
「風よ、球体となり、敵を撃て、【ウィンドボール】」
ハワードは10mの位置で横にステップし躱して見せた。
「!?」キースは驚く!
「主は直線的にしか飛んでこない鞠(まり)をこの距離で躱す事が出来ぬのか?」
キースの対峙した事がある魔獣は知性が乏しい魔獣ばかりだった。良く考えれば害意のある攻撃を躱すなんてことは知性ある生き物なら当然の事だ。
「おっしゃる通りですね」
キースは額に汗を浮かべて同意した。
その距離5mまでハワードは距離を詰める。
キースは後方に下がり体勢を整え再度攻撃を仕掛ける。
「今度は当てますよ!」
キースもハワードとの実践にテンションを上げているようだ。
護衛無しでの一対一の実践、普段の魔法を発動させるだけの日課でやっている事とは違うこれは戦闘なのだと。
始めて魔法を発動したあの日から、毎日修練を重ねてきた自負はある。
だが修練では得られない経験が戦闘にはあった。
まずは敵との間合いの取り方、魔法という攻撃手段の有用性、ミスやイレギュラーが発生した時の捌き方など、戦闘の中で次の行動に繋がる動きの閃きを実践する事が楽しくて仕方なかった。
キースは必中距離までハワードを引きつける事にした。
(何度でも弾き飛ばし近寄らせない)
「風よ、球体となり、敵を撃て、【ウィンドボール】」
ワンドを振り魔法を発動する。
ハワードは目前で放たれた魔法を片方羽で払い除ける。
「どりゃ!」
羽をかすめ「ザシュッ」と音は鳴らすが風の玉は目標を外らす。
ハワードはキースの右足を狙い蹴りを放つ。
鳥にしては綺麗な動きのローキック。
驚きはしたキースだったが「あれ?まったく痛くない、、」
鳥の足など細く脆い そんなものが当たったところでダメージにならないのは当たり前だ
続けてハワード
「天道砕き!」身体を捻りながら踏み込み、両腕を開いて振り下ろす。
「昇天明星打ち!」上方に掌底(フリッパー)を打ち出す。
思わぬ連撃に対し思わずキースはハワードをサッカーボールのように蹴り飛ばす。
「ハワード!それ痛い!」
キースとハワードの体格の差は、
キース40kgに対しハワードは4kgと10倍の差だ。その差は単純に攻撃力の差となる。
ハワードに勝てる道理はない。
だがハワードは諦めていない様子。
ボロボロになったその姿、しかし闘志は戦い前の時より鋭く洗練されているかのようだった。
「ハワード!終わりにするよ!」
キースが追撃を始める。
「風よ、球体となり、敵を撃て、【ウィンドボール】」
ゆっくりと魔力が練られたその魔法は今日一番洗練されていた。
ハワードは躱しきれないと判断したのか両の手で魔法を受け止める構えだ。
「バシッ」
ハワードは風の玉を受け止めた。だが体は後方に流されていく。
「ザザッ、ザザッ」風の玉を受け止める音と地に足を擦る音がまざる。
その場から3、2、1mは流されていたが受け止めるその姿勢は変わる事がなかった。
「ウインドボールを受け止めた!」
キースは驚愕し声にした。
(魔法を受け止めるなんて聞いた事がない)
ボロボロのハワード
受け止めた体勢のまま動かない。
両の羽を前に出し地に膝をついたままだ。
しかし様子がおかしい。
「!?」
キースは驚愕する。
「ハワードそれって、、」
ハワードの体のまわりに取り巻く魔力のオーラ。
「ようやく会得したようだ。」
ハワードはゆっくりと膝を伸ばし立つ。
キースに背を向け大樹に向かい歩む
距離を取り腰を引く構え、あの技を発動させる。「烈風拳!!」
風の刃が大樹を両断する。
それを見たキースが叫ぶ。
「ウインドぉカッタぁあだってぇ!」驚きが声になる
キースも存在は知っていたが中級魔術に相当するその魔法は会得していない。
「ようやく会得したぞこの世界を生き抜く強さを!」
ハワードは楽しそうに高らかに笑うと歩み寄りキースと握手を交わす。
既に日暮れとなった夕日はまるでハワードの様に赤く輝き、大地全てを赤く染めるのだった。
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