第16話 坂城健吾 80歳の質疑応答

 誰も拍手をしなかった。みんな黙ってしまった。


 70歳の彼は落ち着いているようだ。

 髪はさらさらなちょっと長めだけれど整えられている。

 服装は、水色のニットにジーンズ。


 ずいぶんと大人びた少年に見える。


 50歳の私が聞いた。

「アレはまだ持っていたんだ・・」

「そうだね、まさか飲むことになると思わなかったけど」

 20歳の私が聞く。

「アレって?」

 40歳の私が答えた。

「若返りの泉の水。一人山の中で偶然発見した」

「え?いつごろですか?」

「30になる前くらいだね」

「今まで使わなかったんですか?」

 60歳の私が答えた。

「使いたいとも思わなかったね。自分はいつ死んでもいいと思っていたから」


 10歳の私が聞く。

「力って・・・”観る”力ですか?」

 30歳の私が答える。

「あぁ、そうか。あの力を使えるようになったのは20歳を超えてからだったね。

 それまでは”観る”ことはできたけど。

 その力を応用することを覚えたんだ」


 ”観る”力。数キロ先の葉っぱの葉脈まで見ることのできる視力。

 視線を飛ばすことで、はるか遠くまで見通せる能力。

 子供の時から、持っていた。だけど、誰にも秘密にしてきたのだ。


「どんな力なんですか?」

「”かんかく”を見るんだよ。”term”と呼んでいるけどね」

「感覚ですか・・・?」

「間隔だよ」

 不思議そうな10歳の私。

 まぁ、そのうち知ることになる。


「戦争はもう大丈夫なのか?」

 60歳の私が聞く。

「息子は無事だよ。

 私は・・・どうだろう、いくつかの軍隊を壊滅させたから。

 たぶん、このままでは済まないかもしれない」

「そうか・・」


 60歳の私は思っていた。

 もう、自分はいつ死んでもいいと思っていた。

 若返りの水は持っていた。でも、使うことはないと思っていたのに。


「本当に、まさかこんなことになるなんて思わなかった」

 80歳の私が少年の顔で言った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る