廃村 10
(……怪しい!)
男の明らかにモブキャラとは異なる容姿にユウイチたちは一斉に懐疑の念を抱いた。青白い肌に薄紫の口唇。首には大きな十字架をぶら下げている。長い黒髪はまさに和風ホラーの幽霊のようで、そこから覗く大きな黒い瞳からはまるで覇気を感じず、まるで人形のようだった。
「初めまして。黒蝶 緋百合です」
どこの同人作家のペンネームだ、とナナセは突っ込みたくて仕方がなかったが、なんとか堪えることができた。フユキはあまりの胡散臭さに顔がひきつっていた。
「皆様、どうかなされましたか?」
「なにこれ、もしかしてドッキリ!?」
マコトは黒蝶となのる男に怒鳴りつけた。先程の黒岩と同様、恐怖が怒りに反転してきたのである。なおもマコトは黒蝶を問い詰める。
「こんな山奥まで来たっていうのに、最悪! あんたもうちょっとマシな名前をつけたらどうなの!? 見た目もおかしいし、今どきB級ホラーでもそんな格好の人出てこないわよ! むしろ戦隊ヒーローの敵幹部じゃん! 馬鹿なの? 死ぬの?」
「落ち着いてください、マコトさん。戦隊ヒーローの敵幹部はもっとカッコいいですから!」
すかさず反論をするナナセ。彼女は特撮マニアだった。そのためルミ子の技に変な名前を付けていたのである。
「こ、この方は先程お話した霊能力者です! 鬼村ルミ子を紹介してくださったのもこの方なんです。失礼な態度は控えてください!」
黒岩は必死に黒蝶を庇った。黒蝶はなおも冷静に一同に語りかけてきた。
「社が壊されましたね。『ヤタ様』がお怒りです」
「いや、もう怖くないから」
マコトの反応は冷たかった。黒蝶はさも落ち着いた様子を振る舞っていたが、強く握った拳の先がワナワナと震えている様子をフユキは見逃さなかった。
「黒蝶さん、ルミ子はどこに行ったのか分かりますか?」
「彼女は『ヤタ様』の怒りを買いました。おそらくもう、帰ってくることはないでしょう」
黒蝶の宣言に『ノノメセタ』のメンバーはみな、「それはない」と思っていた。しかし、めげずに語る黒蝶の痛々しさに感動もした。
「それで、私達は何をすればいいのですか? その『ヤタ様』をもう一度鎮めなくてならないんでしょう?」
フユキは仕方なく、話に乗ってあげることにした。
「察しが良いですね、そうです、我々は新しい社を建てる必要があります。だからこそ、今は体力を温存しといてください。明日の早朝、一旦村から出ます」
黒蝶はニタリと笑った。
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