廃村 11

 まだ日が昇りきらない早朝、治弔村から出発したノノメセタの一行は、黒蝶に案内されるがまま、宵の紫色に染まった森の中を無言で進んでいた。昨日は空を見上げれば必ず月が見えるように、当たり前のようにいたカラスの大群がまるで夢だったかのように忽然と姿を消していた。非日常の空間ではかえってこの平穏が嵐の前の静けさのように不気味であった。


「皆さん、もう少し進めば別の廃村が見えてきます。その村が何なのか分かりますかね?」


 黒蝶の質問の意図を汲んだのか、フユキは顎に手を当てて答える。


「昨晩、黒岩さんが語った治弔村の伝承では、もう一つの村が登場してましたね」


「え、そうでしたっけ?」


 わざとらしくユウイチはフユキに問い返した。察しの悪いユウイチにマコトは呆れていた。


「あんた、話はちゃんと聞いときなさいよ。治弔村の呪いの基になった女の子が元々住んでいた村のことでしょ」


「その通りです。あの社に祀られていたのはその少女の遺骨です。それが失われてしまったので、なにか少女にまつわる遺物がないのか調べに行くんですよ。ほら、見えてきました」


 森に突如現れたその村は、何十年も放置されていたであろうことは容易に想像できるほどに寂れていた。生い茂る草木に侵食された家々は朝焼けに映えてとても幻想的だった。


「……これは」


 ナナセはすぐにこの村の異常さに気がついた。治弔村では不思議なくらいに感じなかったこだまの負のオーラが、村を飲み込んでいたのである。


「おや、あなたも霊感がお有りですか? ならばよく分かるでしょう。この村に蔓延する呪いの濃度が」


 黒蝶は振り向かずに立ち止まった。


「鬼村ルミ子がこだまと呼ぶ負の感情、我々は負念物と呼んでおります。この負念物、普通はその場に留まり続けるのですが、霊能力があれば切り取り、動かすことが可能なんですよ。ここには当然、黒岩さんのこだまも運び出されています。そう、ここは負念物の貯蔵庫なのです。なぜこんなものを貯めるのか気になりますか? いいでしょう、教えてあげますよ。怪廻サークルの教祖であるこの私が」



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