廃村 8
「ルミ子さん、帰ってきませんね」
ナナセは心配そうに外を見つめた。ルミ子が黒岩の屋敷を出てかれこれ一時間は経っただろうか。外は日が沈みつつあり、黄昏に伸びる木々の影は一同を異界へといざなう手のように見えた。
「ルミ子さんのことですから、何かあったとかは考え辛いですけど。むしろ、何か良からぬことをしていないか不安ですね」
フユキの一言に皆、黙ったまま同意をした。
「あの、黒岩さん。例の社って村のどのあたりにあるんですか?」
マコトの質問に黒岩は答える。
「この屋敷の裏手を真っすぐ行った先にあります。二本の大きな木で囲まれていますので、わかりやすいと思います」
「ちょっと様子を見に行ったほうが良くないですか? まさかとは思うんですけど、ルミ子さんなら本当に壊しかねないですし」
「同感だよ。ユウイチくん。となると、善は急げだ。日が完全に沈む前に行ったほうがいいね」
四人は頷き、屋敷を後にした。
黒岩の言ったとおり、屋敷の裏手を進んだ先に社があった。
しかし、社は無残にも大きなハンマーを打ち付けられたみたいにグシャグシャになってしまっていた。
「おいおいまじかよルミ子ちゃん……?」
フユキは動揺してしまい、いつもの冷静な言葉遣いが吹き飛んでしまっていた。マコトも哀れな社の姿にドン引きであった。
「これどーすんの? 私達呪われちゃうの!? ナナセちゃん霊感があるなら何かわからないの?」
「すいません、私はここから何も感じ取ることができません。ただ……」
ナナセが何かを言いかけた時、空からバタバタと、大きな音が聞こえてきた。カラスである。
「いやーー!! やっぱり呪われてんじゃーーん!」
慌てふためくマコトをよそに、ナナセは何か違和感を覚えた。
「やっぱり、なにか聞こえます」
「もしかして、僕の胸のドキドキ、聞こえていましたか?」
ユウイチは真顔でナナセを問い詰めた。
「ふざけないでください」
ナナセはユウイチを蔑むような目で見た。ユウイチはナナセと目が合うと嬉しそうに微笑んだ。
「ややや、社ががが」
後をつけてきた黒岩は変わり果てた社を見つめてただただ放心状態になっていた。
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