廃村 6

 それからしばらくすると、私達の噂を聞いたのか、一人の男が尋ねてきました。彼は私達にこう言いました。


「あなたは呪われています」


 あぁ、これはまた、変な男に目をつけられた、と思いました。オカルト詐欺だなと。私は一流大学の出身です。この様な詐欺に引っかかるほど愚かでもなければ、追い詰められているわけでもありません。しかし、次の一言で私は彼のことを疑う余地がなくなってしまったのです。


「あなたの先祖は、治弔村の出ですね」


 私は震えました。それは忌まわしき過去の記憶です。その村の名は子供の頃に祖父から聞かされておりました。呪われた村、その村にかつて住んでいたのが我々の祖先なのだと。私はその村の名を聞いた途端、記憶に存在しないはずの村の景色がフラッシュバックしたのです。


「治弔村とは、弔い、治める村です。あなた方の先祖は代々、村にある御神体、『ヤタ様』を弔うことで呪いを鎮めてきました。しかし、次第に村から人が離れ、いつしか廃村となり、誰も『ヤタ様』を弔うことはなくなってしまいました。カラスたちは『ヤタ様』の使いです。『ヤタ様』は治弔村にかつて暮らしていた人々の末裔に災いをもたらしております」


 治弔村には古くからこんな言い伝えがありました。


 それはまだ、村の名が治弔となる前。以前の村の名は今や誰も知りませんが、当時村はとても貧しく、常に貧困と飢餓に苦しんでおりました。


 ある日、ある村に一羽の傷ついたカラスが迷い込んできました。村に住む心優しい少女はカラスの様子に心を痛め、村人には内緒でカラスを介抱してやりました。村には満足に食べる食事もない中、少女は自らの食事を分け与え、カラスは次第に元気になっていきました。代わりに少女はみるみる痩せこけてしまいました。不憫に思ったカラスは傷が治るやいなや、空高く舞い上がりしばらくすると新鮮な魚を少女に持ち帰ってきました。少女はとても喜び、それをあっという間に平らげてしまいました。それからカラスは毎日、少女に食べ物を持ってきました。魚の他に米や柿、豆腐に納豆。初めて食べるものの数々に少女はとても幸福でした。

 

 ところがある日、カラスがいつまで経っても少女のもとに帰ってこず、心配に思った少女は村を離れカラスを探しに行きました。とある村に立ち寄ると、そこではこんな会話が聞こえてきました。


「最近、やけに食い物がなくなると思っていたら、まさかカラスの仕業だったとはな」


「まったく、ムカつく野郎だ。殺してもまだおさまらねえや」


 少女は村の中を駆け抜けました。間もなく、村の外れの井戸で変わり果てたカラスを見つけました。


「そんな、私のために、ごめんなさい……」


 少女はカラスを憐れみ、無意識のうちに手を合わせ、カラスの死を嘆きました。しかし、その行動を村の衆に目撃されてしまったのです。


「なんだ、お前、もしかしてこのカラスを使ってうちの食い物を盗んでいたのか?」


「カラスと同じ臭いがするべ」


 村人は少女の返事も聞かずに捕まえ、とうとう少女も殺してしまいました。


 少女の遺体はカラスと共に山奥に遺棄されました。死体には無数のカラスが群がり、死肉を漁りました。肉の味を覚えたカラスはすぐ近くの村を襲い、村人は少女の祟りだと恐れるようになりました。


 その村こそ、治弔村なのです。

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