廃村 2
話もどうにかまとまり、治弔村にはルミ子、ナナセ、そしてユウイチの三名で向かうことになった。出発は翌週から二泊三日、三人は取材の段取りや持ち物について議論を交わしていた。
「とりあえず携帯の充電器は必須ですね。ノートPCも使うので電池はたくさん持っていきましょう」
「雨宮さん、向こうは圏外ですからそこまで携帯電話を使いますか? 僕はメモで十分かと」
「どのみちPCに入力するんですから、電子媒体に保存しておくほうが手間が省けます。ルミ子さんは字が汚いですし」
「あら、失礼しちゃうわね」
和やかなムードで行われる会議の中、突然、それを打ち壊すような大きな声がした。
「心霊部門の皆さん! 少しいいですか?」
いきなり三人の会話に割って入ってきたその男、都市伝説部の部長である『村上 フユキ』だ。180cmはある高身長に日本人らしからぬ手足の長さ、清潔感のある短髪は七三分けで固められている。縁のない四角い眼鏡の奥にある切れ長の冷たい目は、彼の知性をよく現している。
「フ、フユキさん!? 急にどうしたんですか?」
驚くユウイチを尻目にフユキはルミ子に問い詰めた。
「治弔村といえば、最近、世間を騒がしている都市伝説じゃないですか。それをあなた方心霊部門のメンバーが取材するなはいかがなものでしょうか? 今回の件、確かに手紙を頂いたのはルミ子さんです。しかし、取材ということならやはり我々都市伝説部門が担当するのが妥当ではありませんかね」
「そーよそ-よ! フユキさんの言うとおりよ!」
フユキの後ろから小柄な女性が飛び出してきた。彼女は『神田 マコト』ユウイチとは同期である。茶髪のセミショートに中学生にしか見えない容姿が特徴的だ。
「げ、マコトもいるのかよ」
ユウイチはマコトを見てげんなりした。彼女とは入社前の面接で一緒になったこともあり、そこそこに交流はあったが、物怖じしない、言いたいことをズケズケと言い放つ彼女がユウイチはどうにも苦手だった。
「げ、とはひどい言い草ね、ユウイチくん! あなたもそうは思わないの? これは都市伝説部門の案件よ」
「な、なんでだよ? 心霊現象があるなら俺達の仕事だろ! こっちは直々に依頼されてるんだし、お前にとやかく言われる覚えは無いよ!」
珍しく強気に反抗するユウイチにナナセは驚いた。
「落ち着いて下さい、ユウイチさん。確かに今回の案件は都市伝説部門が担当することが妥当だとは思います」
ナナセの返答にマコトはほらみろ、と言わんばかりの笑みを見せた。
「しかし、先程もフユキさんが申したように、治弔村から直接ルミ子さんに依頼があった以上、我々が対応するのは当然であると思います。ルミ子さんをわざわざ指名したということは、やはり心霊に関わる事象が発生していると考えるのが自然だと思います」
ナナセの答えに特に驚く様子もなく、フユキは答えた。
「ごもっともだ。だからこそ我々は提案をしたい、今回の取材、合同で行うというのはどうだろうか? あなた方は心霊のスペシャリストだが、都市伝説という切り口でないと見えない答えもあると思う。あなた方は治弔村についてはネットに流れているような情報しか知らないわけだし、少なくとも我々は以前からこの村のことを色々と調べている。お互い情報共有をしていきませんか?」
「そーゆーことよ、ユウイチ!」
フユキの提案を聞いたルミ子は表情を変えずにいた。
「なるほど、面白そうね。いいわ。ただし1つ、条件があるわ」
「いいですよ、言ってみて下さい」
ルミ子は間をおいて、こう伝えた。
「車はアンタが運転しなさい!」
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