廃村 3

 森の奥、道なき道を一台の車が突き進んでいる。運転席には村上フユキ、隣の助手席には鬼村ルミ子。後部座席には右から雨宮ナナセ、神田マコト、榊ユウイチの順で並んでいた。ユウイチは隣がナナセでは無いことに不満を抱いていた。車中では治弔村について、都市伝説部が調べた情報が話されていた。


「治弔村、その名の通りある御神体を弔うことで村に起きる災いを治めていたそうです。そもそも災いは鎮めるが正しいので、村の名の由来としては眉唾ですが、いずれにしてもこの村では何か神聖なものを弔っていることは間違いないと思われます。あるいは邪悪なものかも知れませんが。人魚や河童のミイラがあるかも知れませんね。この村に偶然たどり着いた人の話によると、奇妙な音、黒板を爪で引っ掻いたような音が鳴り響いたり、民宿の屋根裏が揺れたりしたそうです。住民は『ヤタさま』が来たと言っていたそうです」

「ヤタさま? なによそれ初耳ね」

「まだ記事にしていないからね。ヤタというと、八咫、八咫烏か、八岐、ヤマタノオロチを指すんじゃないかと考えているんだけど、皆さんはどう思いますかね」

「山姥、山神が変形したとも考えられますね」


 ナナセが答えると、マコトはそれに対抗するように自身の推測を語った。


「私はヤタのヤは夜から来てるんじゃないかなって思います。夜の異形、他の生き物、夜他さまみたいな」

「なんだそれ、なんの根拠も無いじゃん。それなら殺る多、殺多さまのほうが強そうじゃないか」

「うるさいユウイチ! 推測なんだからべつにいいでしょうが」


 マコトがユウイチに噛み付き、車内がわやくちゃになりそうなところで、フユキが道先にある場所に気がついた。


「みなさん、目的地が見えてきましたよ」


 道の奥に不自然に広がった空間があった。まるで木々が避けるようにそこには草木がひとつも生えていなかった。その場所には男と女が一人、ルミ子たちを待ち構えていた。


「あれが治弔村の住人かしら?」


 ルミ子は二人を疑わしい目で見つめていた。フユキは車のスピードを緩め、広場の真ん中で停車した。


「ようこそ、皆さん」


 村の者と思われる男が口を開いた。30代後半くらいだろうか、体はたくましく、無精髭が生えていた。


「アンタが村まで案内してくれるの?」

「左様です。そこまで遠い場所ではないのですが、山道なもので30分程はかかります。村には電気、ガスは当然通っておりませんので、あしからず。水は井戸水を使っておりますが、小さな井戸ですので大事に使って下さい」


 男が語る中、隣の女は終始無言で、表情一つ変えなかった。女性は若く、20代くらいだろうか、肌は小麦色に焼けていた。


「みんな、準備はいい? 気合い入れていくわよ」


 ルミ子の一声に一同は頷いた。











 たくさんの荷物を抱えていたため、予定より時間がかかったが、しばらく歩き続けると、例の三段重ねの石が見えてきた。


「あれ、噂通り入口の前にあるっていう石ですね」


 ナナセが石に目をやると、間もなく村が見えてきた。


「これが治弔村ですか」


 ユウイチは恐怖と好奇心で胸が一杯になっていた。そんなユウイチの後ろでルミ子とナナセは何かを察したのか、目を合わせている。


「ナナセちゃん、わかる?」

「やっぱり、ルミ子さんも気づきましたか。変ですね、この村。心霊スポットだから変なのは当たり前なんですけど」

「心霊スポットだからこそ変なのよ」


 二人の会話に興味をもったマコトはユウイチに尋ねた。


「あの二人、何言ってんの?」

「わからないよ、俺は幽霊が見えないから。きっとなにか良くないものが見えているんじゃないか」

「えぇー、じゃあ、この村本当に幽霊が出るの!?」

「知らねーよ!」


 村の奥から初老の男性が現れる。この村の長老だろうか。


「ようこそ、治弔村へ」

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