廃村 15.2
『鬼村ルミ子の怪奇報告書 第96回 某県、廃村からの招待状』
ハローみんな、アタシは鬼村ルミ子。アタシはいつも読者から寄せられた怪奇スポットを探訪、取材をするんだけど、今回はなんと、心霊スポットから直々に取材の依頼がきたの。あ、最近は新規の読者も増えてきたんでひとつ補足しとくわね。アタシたち『ノノメセタ』の心霊部門は今回みたいに心霊スポットに行く際、必ず『調査』とは言わずに『取材』って言ってるの。なぜだか分かるかしら? そう、幽霊がいたらお話を聞かせてもらうからよ。人の家に勝手に上がり込んで『調査』なんて、警察じゃあるまいし、失礼でしょ? 飛び込み取材もあまり褒められたものじゃないけどね。話は戻るけど、廃村からの招待状ってどういうこと? 人いるじゃんって皆思ったかも知れないけど、この『廃村』、正確には元『廃村』なのよ。何? タイトル詐欺だって? 詳しい事情は後で話すけど、結局の所、本当はやっぱり『廃村』だったのよ。わけわからん? 落ち着け。今からその村で起きた出来事をきっちり話しますから。
そう、それは11月上旬の肌寒い日だったわ。山は秋色から衣替えの真っ最中で、その村には紅葉の絨毯が敷き詰められていたの----。
-----カタカタ。
12月も中頃、夕刻過ぎにはすっかり夜が世界を包んでいた。外の世界は気の早いクリスマスの準備に賑わっており、明かりも点けずに一人、部屋の中で仕事に没頭する彼女は地球に蓋をしたみたいに一人、作業に没頭していた。昼過ぎから仕事に集中していた彼女は照明を灯すことも忘れ、仕事の相方に選択した紅茶も殆ど口にしておらず、カップの中で冷え切っていた。師走とはよく言ったもので、この年末は休みもほぼ取らずに彼女は働き詰めていた。サンタクロースがもし何かをプレゼントしてくれるなら、彼女は迷いなく『時間』と答えるだろう。
ジリリリリリリリリ
携帯電話が突然鳴り出した。着信、鬼村ルミ子からである。同時に部屋がすっかり闇に染まっていることに気がついた彼女は慌てて電話を取り、電気のスイッチを点けた。
「もしもし、雨宮です。何か御用でしょうか」
「ナナセちゃん、あんた今家にいるの?」
電話の奥では雑踏、自動車、年末セールの宣伝が聞こえてくる。ルミ子は外から電話をかけてきているようだ。そのためいつも大きい声がいつも以上に大きくなっていた。
「自宅です。だれかさんが書いた『廃村』のルポを修正している最中です。忙しいので要件だけ手短にお願いします」
「あらあら、可哀想。誰が書いたルポかしら?」
わざとらしく質問をするルミ子にナナセは間髪入れずに切り返した。
「あなたですよ」
「直球ねー。うん、そういうところ可愛いわー」
「そろそろパソコンの使い方を覚えたらどうですか? いつも私には『変化を恐れるな、万物はめぐり、絶えず変化をする。変化なきものはやがて渦の中心に飲まれていく』とか格好つけたこと言って私にミニスカートを履かせようとしたり、髪型を変えさせようとしたりするじゃないですか。それならまず、ルミ子さんが変化を見せて下さい」
「だってー、ナナセちゃんの色んな可愛い姿がみたいじゃないー」
「話がそれました。要件をお願いします」
「もうご飯は食べた?」
「まだです。昼食をとってからは何も口にしていません」
「よかったー。それじゃあ----」
「夕飯は家にあるので外食は遠慮させていただきます。それではさようなら」
「まてまてまて、外食なんて言ってないでしょう」
ピンポーン
ナナセの自宅のチャイムが鳴った。まさか、と嫌な予感がする。ナナセは恐る恐るインターホンカメラの映像を覗き込んだ。
「鍋をしましょう、ナナセちゃん」
そこには両手に大量の買い物袋をぶら下げる鬼村ルミ子の姿があった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます