榊ユウイチ インタビュー記録 『鬼村ルミ子』

 どうも、鬼村ルミ子よ。ユウイチくん、取材の練習をするのは関心だけど、その相手にいきなりアタシを選ぶなんて、小学生が読書感想文に『ドグラ・マグラ』を選ぶくらい無謀よ。それでもあなた、深淵を覗く覚悟はできているのかしら? ふふ、冗談よ。さあ、始めましょう


『幽霊とは』


 最初の取材で簡単に説明させてもらったけど、分かりにくいところもあったでしょうし、改めて説明させてもらうわね。まず、最初に幽霊になる前の『こだま』についてよ。

 『こだま』は人の感情、思いだけが残った状態のこと。怪我をすれば血がつく。酒に酔えばゲロが飛び散る。それと同じ、心の血ゲロよ。なに、汚い? じゃあ、心の涙にしましょう。これは生きた人間から生まれることもあるけど、2.3日から1週間もすれば自然と消えていくわ。それに比べて死んだ瞬間に生まれる『こだま』はとても強いわ。人の最期の思いは様々よ。後悔、未練。妬み、嫉み。恨み、憎しみ。そういったものが水風船が割れるみたいに一気に弾け飛ぶの。それが残った場所は、いわゆる不気味な雰囲気を感じたり、霊感の強い人が近づくと気分が悪くなったりするわけ。この『こだま』に触れた人はネガティブな感情に陥りやすいから、普段は気にしない些細な出来事も心霊現象と勘違いしやすくなるの。多くの人が語る心霊体験はこれが原因。この辺は何となく分かるかしら?


 じゃあ幽霊って何? っていうと、アタシみたいな霊感がある人間から見た幽霊の定義は、『生きた人間と物理的に干渉可能なこだま』を指すわ。普通の『こだま』はアタシたちの感情、心を刺激するだけで、実際に触れてきたり、声を出したりすることはないの。『生きた人間と物理的に干渉可能なこだま』は普通じゃないの。それは大きく分けて3つ。3つの要因が幽霊を生み出すのよ。


1.思いが極端に強い。


 これはユウイチくんでも何となく想像つくわね。シンプルだけど、とても強力な幽霊になりやすいわ。普通のこだまはその場に留まるけど、強力な『こだま』は思いを果たすために動き回るわ。もっとも、範囲は狭いけど。強い憎しみ、殺意を持って徘徊し、人を見かけたら攻撃するわ。なに? 恨んでいる人間だけを攻撃するんじゃないかって? 幽霊は人の形をしているけど、思考回路は機械的なの。性別や年齢をある程度は絞れても、特定の個人を認識することはそうないわ。あらユウイチくん、怖いの? 大丈夫。このタイプの幽霊って一番ベターではあるけど、滅多に発生しないわ。アタシも毎年日本中飛び回っているけれど、年に1,2回しかお目にかかれないわ。それに、そんな危険な幽霊がいる所に一人で行かせることはないから安心なさい。もし出会ってしまったら? 全力で逃げなさい。それと、現場の物は一切持ち帰らないこと。現場の物があるとその周辺は幽霊のテリトリー扱いになるから、ついてくるわよ。


2.意図的に作り出された。


 事故物件でアタシが見せたのがこれよ。ある程度技術があれば、意外と簡単にできるわ。アタシみたいな霊感がある人間にしか出来ないと思う? やり方さえ分かればユウイチくんにもできるわ。このタイプの幽霊はいわゆる『呪い』よ。丑の刻参りとか知ってるでしょ? 自らの『こだま』を幽霊化するの。これはさっきの幽霊と違って、特定の人間のみ攻撃できるの。悲しいことにこのタイプの幽霊が一番良く見かけるわ。大抵は儀式に失敗した出来損ないの『呪い』だけど。


3.死を認識していない


 これも割と珍しいわね。事故現場によく現れるわ。あまり見たくは無いんだけど、子どもが特になりやすいの。基本的に無害で、唯一コミュニケーションがとれる幽霊よ。コミュニケーションと言っても、生前の記憶にある会話パターンだけしか無理だけどね。きちんと供養してあげたら、自分の死を認識して消えていくわ。逆に何もしなかったらずっと残り続けるの。この『こだま』を呪詛に利用する輩もいるの。個人的にはそういう輩はムカつくわね。


 そうそう、補足に、幽霊の衣服は大体死ぬ間際に着ていた、あるいはお気に入りの服を着ているわ。あと、生前の自分のイメージだから、実物より美化されてることも多いの。


 こんなところかしら。幽霊の定義は何となく分かったかしら? 次の質問ね。アタシの生い立ち? それは長くなるからまた今度ね。


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