ブラックな世界で君はどう人を愛しますか?

セセラギ ダイキ

プロローグ~本~

 俺は本屋が嫌いだ。


 会ったこともないような全くの赤の他人の不幸から幸せになった経緯などを自慢げに語っているような本がずらりと並んでいるからだ。

 

 私ができたから君もこの本を読んで頑張れば私みたいになれる?


 ふざけるんじゃあないよ。俺は俺。君は君。

 よく言われるが、経験はお金じゃ買えないんだ。そんな会ったこともないような人間の経験を綴った本をお金で買って何になるんだ。

 見てるだけで腹立たしい、そう腹立たしいんだ! 腹立たしいぞ!!


 だから、俺は本屋が嫌い。


 でも、一冊だけそういった類の本を読んだことがある。内容はそこまではっきり覚えているわけでは無いけど、その人は犯罪を犯したらしく、人生の最下層にまで行ったらしい。そんな中から、有名芸人になるまでの努力を200ページくらいで書き綴られていた気がする。


 ただはっきり覚えていることがある。

 犯罪を犯したことをまるでよかったことだったという風に書き綴られていたということだ。俺には分からない。まるで美談のように書かれているが、犯罪は犯罪であって、その事実だけをくり抜いてしまえばただの罪人だ。


 この本には犯罪にどうして手を染めてしまったのか、その後どう生きて、そこからどう改心したのか、というようにストーリーになっているから、恐怖を感じない。むしろ好感さえ持ててしまう。


 別に犯罪だけに限ったことではない。いじめや、嘘、そんな人の犯してしまうようなことは全部罪なのだ。だが、その人のストーリーが分かれば、一部の本当にやばい奴を除いて、恐怖を感じるとまではいかないだろう。

 

 でも、俺にはそのストーリーがわからない。

 だから、怖い。みんな同じなんだ。


 こんなもの、見たくないんだ。

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