占いの解釈
「えっと……まず、一枚目がセキくんが私をどう思ってるかのカードです」
「君との相性占いは確定なんだな……いや、分かった。僕が君をどう思っているか、か。悪魔の逆位置だって」
「悪魔っすか。やっぱ出ちゃってますかね~小悪魔系後輩としてのアレが」
「タロットの意味に沿って解釈しろ占い師」
「はーい」
そういうと、沙巫お嬢さんは手元の本をめくり始める。
タロット占いについての本に合皮で作られたいかにも占い師らしいカバーをかけているらしい。
「悪魔のカードは……とらえ難い魅力、みたいな感じらしいっすね。鎖でつながれた男女という図柄から、依存とか壊れるまで愛し合う、みたいな……ふへへ。なんすか。サヤちゃんとも人がいながら」
「図柄から読む解釈法の逆位置だと束縛とか、自由になろうと思えばなれるのにダラダラ関係を続ける、とかそういうんじゃなかったか」
「なんでソラでタロットの意味覚えてるんすか。ちょっと引くんすけど」
沙巫お嬢さんとセキ氏は楽しそうにタロット占いを行っている。
その後も吊られた男の逆位置、最後には塔の正位置が出てきて終了となったようだった。
「今回のタロットだと小アルカナは使わなかったんだな」
「知らないっすけど、たくさん使うと回転率が悪くなるからって発案者が」
「確かにね。複雑になればなるほど解釈は複雑になるし。それだったらカード三枚で相性占いやった方がいい」
「でもこれはあんまりじゃないっすか。私からはセキくんのこと退屈で窮屈な人って思ってて、そんで二人の未来は崩壊の一途……と。私とセキくんさんだったからよかったっすけど、普通のカップルのお客さんに出したら空気ヒエヒエっすよ」
「すべては解釈次第だからね。その本の作者さんはそう書いてるし、沙巫はそれをそのまま読み上げたから大惨事になったけど、でもそれをプラスに解釈することだってできる。それこそ悪魔は離れたくても離れがたい運命とか言えるし、吊られた男だって退屈とかじゃなく、イラストから「相手を束縛したい気持ち」を持ってるみたいな風にもできるし。塔も崩壊じゃなくて、今の関係から本音で語り合って1からやり直し……とかさ」
「ははぁ。それじゃ私とセキくんさんの相性は悪くないんすね」
「……もうそれでいいや。ともかくさ、あらゆる占いがそうだと思うけど、本来必然性も因果も存在しないものに無理やり物語とか解釈を当てはめるのが占いなんだと思う。つまり―――」
「つまり?」
「もっとうまく解釈しなさい。僕から言えることはそれだけだ」
「完全なるダメ出しじゃないっすか。ショックっすよ~」
―――なんというか、少し聞き入っていた。
正直言っていることの半分も理解できない。すらすらとタロットの意味を講釈しているが、そのことについては分からないので何とも言えない。セキ氏の言っていることが正しいのか、間違っているのかも。しかし―――
『必然性も因果も存在しないものに無理やり解釈を当てはめる』
その言葉が妙に耳に残る。
同時に、沙也加お嬢さんに言われたことも思い出す。つまり、僕が霊という『現象』に肩入れし過ぎているのではないか、という指摘だった。
……どうなのだろう。
屋上から繰り返し飛び降りたあの影法師は、タロットカードと同じようなものなのだろうか。本来、意味のないものに無理やり意味を当てはめているのだろうか。
だが、どうしても不可能だ。カードなら割り切れる。しかし、それが人間の姿をとって僕の前に現れてしまえば、そこに何らかの感情を覚えずにはいられない。
憐憫、哀愁、憎悪―――そういう、何かを。
僕たちが注文していたメニューがやってきた。紅茶ふたつ、フォーチュンクッキーふたつ、オムライス一皿。
紅茶にはなぜか茶葉が立っている。縁起は良い。
フォーチュンクッキーの中には「探し物出でる」とあった。本来なら良い内容なのだろうが、探し物を悪霊とか怪奇現象ととらえるとあまり感激できない。
そして藤子さんは―――
「ごらんください、久遠さま。オムレツの下に占い結果があるとのことでしたが……グリーンピースで文字が書かれておりまする。大吉だそうでございまするよ」
どうやら良い結果だったらしい。
しかし人がグリーンピースで結果を書いているのだとしたら、それはもはや占いでもなんでもないただの文字では無かろうか。矛盾を感じざるを得ない。
その後、他の占い師メイドがやってきて僕たちの相性を占ってくれた。
彼女は沙巫お嬢さんと違って色々空気が読めたのか、あるいは本当によい結果が出たのか、僕たちの相性、および今後の関係も良好、という結果となった。
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