占いメイド喫茶

 またしても時間まで間があった。

 なので僕と藤子さんで文化祭を見て回ることにした。


 目にするものおおよそすべて初めてだった。

 出し物は各クラスの教室が使われている。あるクラスは焼き鳥、あるクラスは演劇、あるクラスはジュース、あるクラスは綿あめ、あるクラスは映画―――と言う風に、色々なものがあった。


 問題は二階である。沙巫お嬢さんのいる二年生の階。

 そこは彼女の言っていたとおり、メイド喫茶が4つ並んでいる。


 アニマルメイド喫茶から始まり、宇宙メイド喫茶、ノーマルメイド喫茶と行って最後に占いメイド喫茶が現れた。

 その、メイド喫茶というのも実は良く分からない。

 アニマルとか宇宙とかと掛け合わせられる何かなのだろうか。


「いわゆる給仕でございまする。円藤邸にもいらっしゃるでしょう?」

「外国のお世話係ということですか」

「そのコスプレでございまするな。ごっこ遊びにございますれば」


 なるほど。

 文化祭と言う場についてある程度、理解出来てきた気がする。

 つまりはごっこであり、遊びの延長と考えていいのだろう。普段できない大掛かりなごっこ遊びだ。それは店を開くとか、歌を歌うとか、そういう話でもあるし、あるいは祭りという概念を神様抜きで行うごっこでもあるのだろう。


 アニマル、宇宙、ノーマルと一通り見て回った。

 もこもこした動物風の衣服と耳を付け、その上からエプロンを付けた店員が「にゃん」とか「がお」とか「ほー」とか動物の鳴き声を模して接客をするのがアニマル。

 テラテラとした銀色のインナーと頭に触覚を付け、その上からエプロンを着た店員が接客してくれるのが宇宙。

 他二軒に比べると地味な普通のシャツの上からエプロンを付けた店員が普通に接客してくるのがノーマル。


 僕は食が細いのでどの店でもコーヒーかお茶しか飲まなかった。

 味はどれも違いは無かったが、内装はいずれも違う雰囲気を醸していて面白かった。アニマルだとあちこちに草木を模したビニールテープなどが垂れ下がっていたし、宇宙だと銀色の円盤を模した皿や紙コップケースに飲食物が入って出てきたりする。店員も高音と低温を行ったり来たりする変な声を出していて面白かった。


 その点で言えばノーマルが一番地味だった。コーヒーとクッキー。普通の敬語でしゃべってくるメイド。手抜きだろうか 。


 そうして、最後の店。沙巫お嬢さんのクラスだろう、占いメイド喫茶にたどり着く。彼女には来ることは伝えていないが、しかし来ておいて挨拶のひとつもしないのは失礼だろう。


 連れだって入店する。

 店内は薄暗い。卓上にはキャンドル―――を模したライトが置いてあった。これも見立てだろう。

 店員は例の特徴的なエプロンとスカートの上から黒いフード付きのマントを羽織ったり、ステッキを持っていたりする。水晶をこれ見よがしにのぞき込む店員もいて、まさに占い師とメイドの兼業を行っているという風情の人物ばかりだった。


「面白いものでございまするな。占いというのも久々でございます。高校生の頃はよく友人とやっておりました」


 そういう藤子さんは楽しみにしているようだった。

 僕は、占いは人にすることはあれどやってもらうことは無かった。占い、というよりも霊視として行っていたものだから何か知識とか技術がある訳でもない。

 その人に悪しきものが付いているかどうか、それを見ることを指して僕の一族は占いと呼んでいた。


「では、店員のお方。フォーチュンクッキーセットふたつと占いオムライスをひとつ、それと占いもお願いいたしまする」


 この店では占いは注文すると出来る、と言うものらしかった。


「相性占いにいたしますか?」

「相性でございまするか……どうでしょう?」


 藤子さんが聞いてきた。

 ふむ。これからもコンビを組むのかは分からないが、景気づけにはいいかも知れない。


「ではそれで」


 ということで、相性占いを頼むことにした。

 ただ、今占いが出来る人間はフル動員しているらしく、すこし待ってもらうことになる、と僕たちの注文を取ったメイド占い師は言う。彼女も口元をシルク生地のマスクで追っていたりして、占い師の雰囲気を醸していたが、しかし彼女は占い師ではないらしい。


「はーい、おまたせしましたー」


 声が響いた。

 隣の客席に占い師が到着したらしい。


「本日お相手いたします、すなっぴーでーす」


 その声はよく聞きなじみのあるものだった。沙巫お嬢さんの声である。僕たちに対するものよりも猫をかぶっている様子で、とにかく明るい。


「よろしくおねがいしますねー」

「よろしく」

「……ってあれ、セキくんさんじゃないすか」


 あの男性がセキ氏か、と横目でちらと見た。名前だけはやたらと聞くが、しかしどのような人物なのかは知らなかった。あの沙也加お嬢さんと親しいというのだから一筋縄では行かなそうだが。

 セキ氏は黒いシャツに黒いベスト、明るい緑色のネクタイという、割とフォーマルな服装でここにきていた。その様子はドラマに出てくる探偵か、さもなくばバーテンダーのようでもある。


「え、あれ?サヤちゃん居ないじゃないっすか。ついに振りました?」

「僕と沙也加さんが振る・振られるという関係なのかは何とも言い難いところがある。……いや、不浄まで花摘みに行ってるだけだよ。他二軒で調子にのってコーヒーを飲み過ぎたから」

「ははぁ。また後先考えないことしますねぇ、私の姉。で、どうします?注文だと相性占いってなってましたけど。サヤちゃんがいないんじゃなぁ。私とにしておきますか?」

「……まぁ、それでもいいけど。何占い?」

「タロットっすよ。タロット」

「ああ……古代エジプトのトートの書にルーツを持つ……という設定でヨーロッパで大流行した、あの」

「おおう、もうすでに占い師役の私より詳しいっすね。猛烈にやりたくなくなってきました」

「ちなみに聞いておきたいんだがエリファス式とクロウリー式、黄金の夜明け団式のどれでやるんだ?僕はクロウリー派なんだけど」

「めっちゃこだわり持ってるじゃないっすか。もう無理っすよ。私に対応できる気がしないんすけど」


 思った通り、セキ氏も面倒な人物らしい。

 やはり一筋縄ではいかなそうである。

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