落ちていく時計の針
現れるお嬢さん
「古来、日本において怨霊とは『死後に復讐をなす霊』という意味で用いられていました。
円藤家のもう一人のお嬢さん、円藤沙也加は部屋に現れるなり、怨霊についての講義を饒舌に語り始めた。
「思うに、怨霊という現象は死した存在が引き起こすものでは無く、彼らを死に追いやったものの後ろめたさが引き起こすものではないか、ということです。先に挙げた怨霊たちは、彼らを害した勝者たちによって供養されたり
彼女の物言いは理屈っぽいものであるように思えた。
怨霊というものの歴史的意義やその成り立ちなど、彼女の言う通りなのだろう。だが、とは言えそれは頭で考えたことであるように思う。
あと知識と理屈でまくしたててこちらのペースを奪おうという意思も感じられた。
「隠元さんと座間さんが解決した事件においても、同じことが言えるのでは、ということです。怪奇現象をもたらしたのは自殺した人物の生前の意思ではなく、彼の死に後ろめたさを感じる加害者によるものだとしたら?そうであるならば、貴方が寄り添うべきはやはり霊ではなく―――」
「あーっ!サヤちゃん帰ってたの!?」
調子よく続けられていた沙也加お嬢さんの独壇場は、彼女の妹の登場によって遮られた。
「……スーちゃん。今いいところなのです。あとスーちゃんの嫌いなお話をしているところなので、聞かない方が良いのでは?」
「それどころじゃないってか、サヤちゃん?セキくんとしばらく連絡してたなかったって聞いたよ!?ちゃんと謝りなよ!すっごく心配してたんだから!」
「ああ、はい……すみません。でもそれは私たちの間で一応の解決を見たというか、これから詰めていくといいますか……」
「あと母さまもお話があるみたいだから」
「なんと。私とセキくんの関係の話ですか?実は私もご報告が―――」
「私が嫌いな方の話!なんか怒ってた!」
そういうと、沙巫お嬢様はまたしても引っ込んでいった。
―――妙な空気が部屋の中を満たしていく。
沙也加お嬢さんは大層、ばつが悪そうにこちらを見た。
「というわけです。私が円藤家長女、円藤沙也加です。よろしくお願いいたします」
「……座間久遠です」
「はい。これから先ほどの続きと行きたいのですが、母に呼ばれているみたいなのでこれで失礼させていただきます。白状いたしますと、依頼で少しやらかしておりまして。お説教となるはずです。それでは、よしなに」
そういうと、沙也加お嬢さんは僕たちの前から去っていった。
まるで嵐か、春の雨のような女性だと感じる。
というか。
「藤子さん」
「はい」
「円藤のお嬢さん―――お姉さんの方は普通に接してくれると言ってませんでしたか」
「はい。そう言いました」
「全然普通じゃないのでは?」
円藤沙也加はいきなり現れて、僕たちに何やらダメ出しか議論でも吹っ掛けてきた。なんとうか、普通の対応からは程遠いと感じる。
僕の指摘に藤子さんはなおもニコニコとしながら「沙也加さまも悪気はないのでございまする」と彼女を擁護した。
「沙也加さまは―――なんと言いましょうか。初めは面食らうかもしれませぬが、とにかく悪気や我々を否定しようという意図で来ているのではございませぬ。ああいう会話を楽しむお人なのです」
「はぁ」
……なんというか、それならば余計に彼女と相いれるのは難しい。そんな気がしていた。
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