ビルに彷徨う幽霊
コンビを組む
何が出来るのか、何が出来ないのか。
僕は世間一般の退魔と言うものを知らない。
出来るのは僕のやり方だけだ。
何せ20年引きこもってきたようなものだったから。
そんな僕の力だが、絹葉さんに言わせれば「特殊だけど使いようはある」というものらしい。
と言うわけで、早速翌日から仕事をすることになった。
とある依頼が来ていて、それを担当する退魔師と組むことになる。
皆で卓を囲んで朝食を食べる。
円藤絹葉さんと娘の沙巫お嬢さん、僕、あとあとから来た知らない人1名。
顔を見知った絹葉さんとお嬢さんの方はともかく、後から来た知らない人は僕のとなりで大層おいしそうにごはんを頬張っている。
ちなみにメニューは白米、鮭、野沢菜のおひたし、わかめのお味噌汁である。中々豪勢だ。
「作ってるのは雇ってる料理人の方なのよね。あ、でも私も作ろうと思えば作れるのよ?ただ作る機会が無いってだけで―――」
「はぁ。なるほど」
絹葉さんだけが喋っていて、僕がかろうじてそれに相槌を打つような形になっていた。
お嬢さんはまったく喋らないし、僕と知らない人にも目を合わせようとしない。知らない人はご飯を食べるのに忙しそうで、やはり喋らない。
「そういえば娘さんがもう一人いらっしゃるとお聞きしましたが」
「ああ、沙也加ね。あの子最近別の仕事が立て込んでるのよね」
「セキくんにべったりなんじゃないすか?もうセキくんセキくん煩いですもん、最近」
「それもあるかも知れないわ」
ようやくお嬢さんが会話に参加した。
姉と関氏のことは喋ってもいいことらしい。黙々と食べる知らない人が姉である可能性も少し考えていたが排除された。
はっふはっふ、ずずっ、もっきゅもっきゅ、ごっくん。
そんな擬音が隣から聞こえてくる。
それは消して下品なものでは無く、限りなくおいしそうに聞こえるものだった。
さて、僕はと言えばあまり食が進んでいない。
というのも、もともと食が細かった。封印術式の影響で体力もない。必要最低限食べるには食べるが、あまり多くは食べられない。
しかし隣の人を見ていると、それだけで少し食欲がそそられた。
こういう人とごはんを食べるのは悪くないかも知れない。
ただ、それでも鮭の切り身を少し残してしまった。
おいしくなかったわけでは無い。とてもおいしかった。身体も軽い。途中からは談笑も混じっていた。
こんな風に、普通に朝ご飯を食べるのは久々だった。
身の回りのお世話をしてくれる人は僕を大事にしてくれはしたが、それはかなり過剰な―――まさしく神様をまつるような恭しさを持って行われた。それは朝食と言うよりはもはや儀式だった、と思う。
時折、外の情報が入ってくる。
インターネットとか、本とか、マンガとか。
そういうものによると、食事とはもう少し気楽なものらしい。
そういう気楽な食事を始めて味わった。
しかし、体力の限界と言うものはいかんともしがたい。
「………」
隣から視線を感じる。
僕では無く、お膳の中の鮭の切り身への視線である。
「あの。食べますか」
「いいのでありまするか!?」
僕がはい、と答えると知らない人は鮭の切り身を自分のお膳に持っていき、これまた大層おいしそうに咀嚼した。
それは一瞬、分けたことを後悔させるほどの食べ方とリアクションだった。
そうして、朝食はお開きになった。
お嬢さんはさっさと部屋に戻り、それからほどなく学校へと出かけていく。僕は、と言えばお膳の片づけが終わった後、改めて知らない人と相対することになった。
「初めましてでございます。
「
その様子は、さながら海外映画やアメコミなどで想像される日本人のごとき過剰さを伴っていた。
「すでにご存じの通りでありまする。わたくしと座間さまで、今日から一緒にお仕事となりまする」
なんと。この人が僕が組む相手らしい。
僕はまったくご存じでは無かったが「がんばります」と所信を表明しておいた。
やや間が開く。
だしぬけにふふ、と藤子さんは笑いを漏らした。
なんだろう。何か失礼でもあったろうか。
「ざまさま……ざまさま……ふふっ」
「はぁ」
むしろ相手の方が失礼な趣がある。
彼女は僕の名前を連呼しながら笑みをこぼしていた。
「ざまさまって、なんだかぷよぷよみたいですわね」
「そうでしょうか」
「笑ってしまいそうなので……ふふっ、今後は久遠さまとお呼びしてもよろしいかしら?」
「大丈夫ですが」
しかし、そんなに似ていないと思うのだが。ぷよぷよ。
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