第3話 謎の依頼者

 1990年9月、磯川結衣いそかわゆいがG町事件を解決後群馬県警に立ち寄った際、瀬島友香せじまともか警部から奇妙な告白書を見せられる。告白書の主は岩城智充いわきともみつという太田市の美術店の店主で、中村アンナと名乗る瀕死の女を拾って情交を重ねた挙句に死なせてしまい、彼女の生前の希望で石膏で型を取ったデス・マスクを、一つは彼女の書き残した宛先に送り、もう一つは一生の思い出として手元に残しておく、というのがその内容であった。


 デス・マスクの女は、警察の捜査により六角市のディスコで五木麻里子と名乗っていたダンサーで、4月に男を射殺して全国に指名手配されていたことが判明した。逮捕された岩城は精神鑑定のために留置場からの護送中に川に飛び込み、死体があがらないまま行方不明となった。デス・マスクの送付先は、東京の芸能会社『ギガース』の経営者の石川晴子いしかわはるこであることが判明した。以上が、結衣が友香から聞いた事件の概略であった。


 10月なかば、庄屋町のスバル工場近くにあるビルにある磯川探偵事務所に遠山真奈美とおやままなみという女性が訪れ、中村アンナのものと同一人物のデス・マスクを見せて結衣を驚かせた。デス・マスクの主は真奈美の妹の中村真由で、姉の石川晴子の元に送られてきたものであった。3人とも姓が異なるのはそれぞれの父親が違うからであった。


 1991年5月、六角市で育った五木智子は、数日後に迎える48歳の誕生日に、祖父の五木利夫と介護士の船木直美ふなきなおみとともに、父・五木賢の住む東京の屋敷に引き取られることになっていた。利夫は95歳だったが全速力で走っても息切れしなかった。智子は、ロンドンへの旅行直前に、好奇心に駆られて別館の開かずの間に入ったところ、そこには血がついて折れた斧があった。その頃、名探偵のコンビ・多門瑠璃たもんるりと磯川結衣が来訪する。


「10年前の惨劇を回想せよ。あれは果たして過失であったか。何者かによって殺されたのではなかったか?」という警告の手紙を読んだ五木賢と、もう1人同じ警告の手紙が届けられた「謎の依頼者」から相談を受けた流星亮太りゅうせいりょうた弁護士に智子の護衛を依頼していた。磯川は由依に改名。由依は流星弁護士に10年前の出来事とその後の顛末を聞き出す。


10年前、1980年7月、サラリーマンだった五木賢と友人の天野涼介あまのりょうすけ酔象村すいぞうむらを訪れ、滞在中に天野は二宮由里子にのみやゆりこと契りを結ぶ。2人が島を去ったあとに妊娠に気付いた由里子からの報せを受け、天野は10月中旬に酔象村を再訪するが、彼はそこで崖から落ちて不慮の死を遂げる。状況は事故のように思われたが、天野が島から「謎の依頼者」宛に送った謹厳な手紙の中に、ふざけたような調子で蝶々をライカで撮って送ることが書かれていた。🦋

「謎の依頼者」は、由里子の子供を私生児にしないために賢をくどいて名義上の結婚をさせようとしたが、賢には小雪こゆきという妻がいた。

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五木家は永久に不滅です! 鷹山トシキ @1982

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