第2話 母の秘密

 1995年1月

 財政難によって荒んだ六角市で暮らす五木亮平は、母親の麻里子の「くじけないで」という言葉を胸に、アルバイトのコンビニの仕事に勤しんでいた。発作的に笑い出してしまう病気によって精神安定剤を手放せないうえ、定期的にカウンセリングを受けねばならない自身の現状に苦しみつつ、年老いた母を養いながら2人で生活していた。


 亮平には夢があった。一流のコメディアンになって人々を笑わせ、注目を浴びたい。日々思いついたネタをノートへ書き記し、尊敬する大物芸人の小池八郎《こいけはちろう》が司会を務めるトークショーで脚光を浴びる自分の姿を夢想していた。しかし、街の不良少年たちに鬱憤晴らしの標的にされて暴行されるなど、仕事はトラブル続きで上司の評価も芳しくない。外の世界で亮平を気にかけてくれるのは、六角大学の戦士、二階堂だけだった。生活も酷く困窮しており、亮平はかつて自分を雇っていた街の名士・九鬼伸也くきしんやへ、救済を求める手紙を何度も送っていた。


 ある日のこと、亮平は同僚の十河圭子《そごうけいこ》からトラブルに対する護身用にと、遠慮しつつも拳銃を借り受ける。しかしこれを勤務中に落としてしまい、遂に仕事をクビにされてしまう。圭子にも裏切られ、絶望の気持ちでバスを待っていると、酔っ払ったスーツ姿の男3人が女性をナンパしている場面に出くわす。そこで笑いの発作が起きてしまい、気に障った3人に絡まれて暴行されるも、反射的に全員を拳銃で射殺した。

「俺を笑うな!」

 戸惑い、罪悪感、自殺衝動、恐怖を覚える混乱した亮平だったが、その帰り道では言い知れぬ高揚感が己を満たしていった。この殺人は貧困層から富裕層への復讐と報道され、犯人が不明のまま六角市民から支持を集める。

 さらに、殺された男たちの勤めていた自動車会社『バハムート』のトップである山西拓郎やまにしたくろうが、色めき立つ市民を『頭の悪い奴ら』と嘲ったのを機に事態は加熱。六角市における貧困層と富裕層との軋轢がますます悪化、ゾンビの仮面を被った市民による抗議デモが頻発した。🧟‍♀


 これまで誰からも認知されずにいた亮平は気分を上げ、同じアパートに住むシングルマザーの篠原房江しのはらふさえと仲を深める。

 カラオケボックスに行ったときに、尾崎豊の『卒業』を歌ったところ房江に褒められ、セックスをすることに成功。意を決して出演した歌手を目指すオーディションは、笑いの発作に侵されながらもどうにか最後まで演じ切った。そんな中、亮平は麻里子の日記を盗み見、麻里子がある殺人事件の犯人であることを知る。

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