第57話
「もしもし、お父さん?どうしたの?」
「龍之介、仕事中で申し訳ない。」そう言って病院に行った経緯と先生が家族を呼ぶように言ってる事を説明した。龍之介は
「分かった。上司に行って帰れるように頼んでみるよ。そしたら直ぐ病院に行くから。」
「そっか。悪いな。」
「大丈夫。待ってて。」電話を切った。一時間程、待合室で待っていると龍之介が走って来た。
「待たせてごめん。」と息を切らしていた。
「走って来たのか?悪いな。」
「いいんだよ。それよりも大丈夫?」
「あぁ、腹の調子が悪いから来たら、検査させられた。」
「させられたって…それだけ良くないんじゃないの?」
「痛みは無いけどな…。」二人で話をしていると診察室に入るよう看護師に促された。中に入り先生の前に椅子を持って来てもらい、二人で並んで座る。先生が静かに話し始めた。
「里中さん、今すぐに入院の手続きを行って下さい。」俺と龍之介は顔を見合わせ呆気に取られた。思ってもいない言葉が放たれたからだ。
「先生、今日ですか?」
「はい。これから説明しますが、気をしっかりと持って聞いて下さい。息子さんかな?お父さんの病気に関して話しますので、よく聞いて下さいね。」
「分かりました。」龍之介が真剣な顔になった。
「里中さんの病気は大腸癌です。しかもかなり進行してます。もう少し詳しい検査をする必要がありますが、今日の検査で診た所、ステージ四まで進行しています。」
先生…今、何て言った?俺が癌?しかもステージ四って。俺は放心状態になっていた。しかも頭の中で色んな事を考え言葉が出なかった。
「先生、治る確率を教えて下さい。」俺よりも冷静な龍之介が言った。
「今の所、何とも言えませんが二割程度といった状況でしょう。なので早めに入院して治療に専念して頂きたい。」
二割…俺の命は二割しか無いのか…治療しなかったら死ぬ?…ユリと龍之介を残して死ぬのか…やっと…やっと、前の家族に戻りつつあるのに…まだ戻る途中なのに。どうして俺が病気に…しかも癌…何故、何で、俺が癌になるんだ…これが運命なのか…そんな運命なんか受け入れられる訳ないじゃないか…。
気持ちの整理が出来ず、下を向いてしまった。すると温かい手が俺の背中を優しく擦った。
「お父さん、治療、頑張ろう。俺も一緒に癌と戦うよ。」隣で龍之介が俺を応援している。龍之介が俺に生きろって言ってる。俺の目から涙が溢れた。息子に泣き顔なんて見せたくなかった。弱い父親なんて見せたくなかった。でも、今の俺には龍之介の言葉や存在が生きる希望を与えてくれている。父親でも弱い部分を見せていい時もある。そう思った。そう思いながら泣いた。龍之介に救われている。ありがとう、俺の息子に生まれてきてくれて。
「先生、治療します。宜しくお願いします。」
「分かりました。一緒に頑張りましょう。」
こうして俺の闘病生活が始まった。
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