第56話

 龍之介に言われてから身体の事が気になったが、昼夜の仕事にユリの病院にと相変わらず、忙しい毎日を過ごしていた。

 そんな時、お袋が亡くなった。老人ホームに入所していたが最後は心筋梗塞で亡くなった。奇しくも親父と同じ病気で亡くなった。俺と龍之介だけで静かに葬儀を執り行った。ユリの事故以来、お袋の所になかなか行く事が出来なかった。

「もっと、おばあちゃんに優しくしておけば良かった。」と龍之介は後悔していた。俺はお袋には申し訳ないが、亡くなって助かったと思った。ユリとお袋の施設代は馬鹿にならないからだ。これで少しは生活にも余裕が出来るとも思っていた。俺は、なんて親不孝な息子なんだろうと自分を罵倒していた。


 この頃から俺の身体に異変が起き始めていた。

「お父さん、トイレまだ?」トイレの扉の外で龍之介がノックしてきた。

「悪い、悪い。今出るから。」そう言ってトイレから出た。俺と交代で龍之介がトイレに入った。トイレから戻った龍之介に

「トイレ長かったじゃん。調子悪いの?」

「お腹の調子が悪くて…すまん。」

「まぁ、間にあったから大丈夫だけど…整腸剤飲んだ方がいいんじゃないの?」

「そうだな、飲んどくよ。」引き出しに入っている薬箱から整腸剤を出して飲んだ。

「今日、仕事行けるの?無理しないでよ。」

「大丈夫。薬も飲んだから。」

「ならいいけど、俺、仕事行くよ。行ってきます。」そう言って鞄を持って出て行った。

「あぁ、仕事、頑張れな。」玄関で送り出した。俺も仕事の支度を始めた。だが、出掛けるまでに再度、トイレに入った。調子悪いな。今日はお腹は痛くないが便の出る回数が多い。今日と言うよりも最近だ。便が水っぽいのが多い。だからトイレに行く回数も増えた。でも、いつものように整腸剤を飲むと調子が良くなる。今日も飲んだから大丈夫だろうと、この時の俺は楽観的に思っていた。

 それからもこの症状が続いた。そんな、ある日の朝。いつものようにトイレに行くと便に血が付いていた。今までこんな事は無かった。でも、お腹は痛くない。たまたまかもと思って、いつものように整腸剤を飲んで仕事に行った。そんな日が一か月も続くと流石に良くないと思い、意を消して工事現場を休み、病院に行った。

看護師に症状を言うと検査をするよう案内された。検査後に診察室に呼ばれると担当の先生が怪訝な顔をしていた。

「里中さん、何故もっと早く来なかったんですか?」俺、先生に怒られてるのか?と頭の上を疑問符が飛んだ。

「先生、何処が悪いんでしょうか?」

「ご家族を呼んで頂けますか?」

「え?今ですか?」

「はい。今すぐ。なるべく早くお願いします。」先生が看護師に小声で説明していた。看護師から

「では、里中さん。一旦、待合室に行きましょう。」と誘導された。

看護師に妻の状態を話すと

「他にご家族は?」

「会社員の息子が居ます。」

「では息子さんに連絡出来ますか?」そう言われて龍之介に電話を掛けた。






 

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