第50話 美那の心情⑭

 メールには(もう別れよう。)と短い文章だった。ショックだった。携帯の画面を見ながら涙が止まらなかった。涙で画面が滲み、震える手で返信した。

(私たち、もう駄目なの?)

(ごめん。今の俺は家族の中で大黒柱なんだ。仕事と家族の事でいっぱいで、美那の事まで考える余裕がないんだ。本当にごめん。)悠太の返信に何て返していいか分からなかった。だって、私よりも家族と仕事の方が大切だって言われたんだもん。…勝てる訳ないし。でも、もしかしたらもう一度考えてくれるかもしれないと。最後の我儘を言ってみた。

(…悠太、私は別れたくない。仕事して家族を養わなければいけないのも判ってる。お母さんの看病も悠太がしなきゃいけないのも理解してる。本当は近くで支えてあげられたらいいのにって、ずっと思ってた。でもそれが出来ない状況だってのも判ってる。無理は言わないから別れるなんて言わないで、お願い。)

返信が無かった。再度、私の思いを送った。

(私、待ってるから。悠太の家族が落ち着くまで待ってるね。)


 結局、この日を最後に悠太との連絡が途絶えた。私の中で悠太の存在がかなり大きかったと、連絡が途絶えて初めて分かった。大学の講義やバイトにも身が入らず、友達が心配してくれていたが、それに答える元気も無かった。バイトでは失敗が多くなってしまい店長に怒られる事も増えた。家に帰ると悠太との思い出の写真を見ては涙が止まらなくなった。こんな状態の日が続いた。そんな中で何とか生きているような感じだった。バイトは失敗が多いから少し休みなさいと言われた。自業自得だと思って受け入れた。多分、解雇だろうと思う。一応、仕送りがあるから派手な生活をしなければ暮らしていけると思う。食事もお腹が空かないと言うか食べたくない。大学の講義は受けないといけないと思っていたが、数日経つと、それもどうでもよくなっていった。何もやる気が起きない。

 そんな時、悠太のブログを見つけた。開いて後悔する。北海道に引っ越してから暫く更新してなかったのに、つい三日前に新しく追加されていた。その画面を見て驚いた。顔は映ってなかったけど、二人が手を繋いだ影が移されていた。まして(俺の大切な人)って書かれてた。頭を鈍器で叩かれたような衝撃を受けた。酷い、酷過ぎる。やっぱり離れちゃいけなかった。離れたら心も離れるんだ。人間なんて簡単に心変わりするんだ。私はあんなに好きだったのに。もう誰も信じない、信じられない。

 私は朦朧とする中でドラッグストアに行った。暫く食べ物も受け付けていないから、歩くのもやっとだった。最近は眠れない日々が続いていた。寝て起きたら夢だったってなるかもしれないと睡眠薬を購入した。家に帰って薬を飲んだ。これで全て夢だったとして起きれる。明日は悠太に連絡してやり直そうを告白しよう。悠太だって考え直してくれるはず。私はベッドに横になると、今まで眠れなかった日々が嘘のように熟睡出来た。これで、ゆっくり眠れる。


 この後、美那が起きる事はなかった。

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