第49話 美那の心情⑬

 悠太が大学を辞めて北海道に引っ越した。見送りは行かなかった。行ったら泣いてしまう…行かないでって引き止めちゃいそうだったから。悠太の決心を揺らがすような事はしたくなかった。だから、わざとバイトを入れた。悠太もバイトがあるって言ったら仕方ないって言ってた。電話の向こうはとても悲しそうな声だった。ごめんね、許して。笑顔で送り出す程、強い心は持ってないから。でも必ず、会いに行くって約束した。

 こうして遠距離恋愛が始まった。北海道に引っ越した悠太は直ぐに就職活動を行っていた。就職活動しながら、アルコール依存症に近いお母さんを心療内科に連れて行くなどして忙しそうな毎日を送っていた。私とは毎日のように電話をしていた。お互いに今日、起きた出来事を話していた。弟さんは高校が変わって慣れるまでは、情緒不安定な様子が見られたらしいが、徐々に友達も出来て、今は落ち着いて学生生活を送っていると言ってた。お母さんの状態は一喜一憂しているみたいで、なかなか安定しないとの事。たまに夜中になると奇声を出しパニック症状も現れてしまい、その都度、悠太が起きて看病しているって言ってた。祖父母は年齢が年齢だから無理させられないって。昼間はどうしても看てもらわないといけないから、夜間は悠太が看てるらしい。

 引っ越してから半月ほど経った頃、悠太の就職先も決まった。

「就職、おめでとう。」

「ありがとう。やっと決まったよ。」

「良かったね。これから大変だけど頑張ってね。」

「おぉ。美那も大学とバイト頑張れ。」

「うん。」それからはお互いの時間が取れるのが、私のバイトが終わってからの数時間に電話をするのが日課になっていた。でも、途中で悠太のお母さんの調子が悪くなり度々、電話を切らなければいけない状況があった。私の中では少しでも悠太の声が聴ければいいと、それで満足していた。

 そんな遠距離恋愛は、やはり長くは続かなかった。悠太の仕事が忙しくなり、お母さんの状態も思わしくなく、昼は仕事、夜間にお母さんの看病で寝る暇が少ない悠太の心は段々と壊れていき、私への電話の回数も減っていた。それでも、私の中では大丈夫だと思っていた。でも、ある日の電話で、もう無理なんだと実感した。

「悠太、元気?寝てた?」

「…うん。」

「最近、電話、出てくれないから、大丈夫なのかと思って…。」

「…美那、俺はもう学生じゃないからさ。社会人として忙しいんだ。そんなに電話出来る時間取れないよ。」

「…そうだよね、ごめん。」

「…ごめん。ちょっと疲れてて。きつい言い方した、ごめん。」

「いいんだよ。疲れてるのに電話した私もよくないんだし、ごめんね。ゆっくり休んで。また電話するから。」そう言って電話を切った。悠太が心配、そう思っていると悠太からメールがきた。

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