第47話 美那の心情⑪

「実は…親父が浮気して…それにお袋が気付いて…。毎日…二人が喧嘩ばっかりしててさ。お袋が段々、可笑しくなってきちゃったんだ…。家族が居ないと酒ばっかり飲んで。俺も家に居る時は二人に喧嘩は止めろって、お袋にも酒、飲むなって言ってんだけど…。」悲しそうな表情で言葉を選びながら話す悠太を見ているのが辛くなり、悠太の隣の席に移動した。右手を悠太の背中に当て優しく擦り、左手は悠太の手を強く握った。

「…辛いなら、無理に話さなくてもいいよ。」私は静かに言った。しかし、悠太は話を続けた。

「美那には全て話しておかなきゃいけないんだ。」そう言って、ゆっくりと続きを話し始めた。

「お袋が休んでる時に親父が俺に話があるって呼び出されて…今後の事をどうするかって。親父はお袋とはもう別れたいって言ってて。だからと言って、相手の人とは直ぐに結婚はしないらしい。一応、俺と弟がまだ学生だからって。ただ、お袋は今まで専業主婦だったから…経済力が無いから…。」そう言って悠太の話が止まった。私は嫌な予感がした。私の前から悠太が居なくなるような気がしてならなかった。だから、私からその先の話を促すような事が出来なかった。どれ位、時間が経ったのか、テーブルに置かれたアイスコーヒーの氷が解けて、コップに中でカランと音を立てた。悠太が続きを話す。

「…実はお袋の実家が北海道なんだ。親父はお袋と一緒に実家の祖父母の家に行った方がいいんじゃないかって言ってて。祖父母も帰って来いって。弟は、高校の編入試験受けさせるって。」

「ちょっと待って、北海道って…悠太、大学はどうするの?こっちに残る事出来ないの?」私は悠太と離れたくないから、どうにか悠太だけでも北海道に行かなくて済む事が出来ないかと色々考えた。

「俺も大学は卒業したいよ。でも、今のお袋の状態じゃ働けないと思うんだ。精神的にもおかしくなってるし…。親父は仕送りしてくれるって言ってるけど、それは弟の学費の分で、俺の分までは無理だって言ってる。祖父母も歳が歳だから、お袋と弟の二人を預けても不安だから、俺にも北海道に来て欲しいって…頼まれたんだ。」

「…そんな…。」さっきまでの幸せな時間が無かったかのように、世界が一気にどん底に落とされたような気分だった。

「…ごめん。」どうしよう…私の傍から悠太が居なくなる。私の生活に悠太が居ないなんて考えられない。悠太が居ない日常なんて無理だよ。私は悠太の肩に頭を付けて、周りに聞こえないよう声を殺して泣いた。

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