第45話 美那の心情⑨
心臓の音が聞こえるんじゃないかと思う位に早く波打っていた。悠太には知られたくなかった。悠太と別れたくない。でも、もう隠せない。
「美那、話して。俺は美那の事、何でも知りたいから。」優しく静かに言った。その言葉に今まで通り付き合っていけるかな、と少しの期待を抱いた。
「実は…お母さんが事故って…二人…亡くなって…。」言葉を詰まらせながら話した。悠太の顔が見れない。反応が怖い。暫く沈黙が続いた。どうしよう…捕まったって言えない、言いたくない。でも全て話した方が後から聞くよりいいのかな…と心の中で葛藤して、次の言葉が出てこなかった。すると、
「…もしかして今、ニュースで話題になってる事故の事?」と悠太が言った。私は何も言わずに首を縦に振り、そのまま地面を見ていた。顔が上げられない。今、悠太がどんな顔しているのか見たい…でも…見れない。今までのように付き合えないのかと思うと涙が溢れてきた。
「そうだったんだ。これでやっと、あの人達が言った事が分かったよ。」
これでもう終わりだ。私から別れを言った方がいいかなと考えていると
「お母さんの事故、凄いニュースになっちゃったね。でも美那が事故った訳じゃないじゃん。お母さんでしょ?美那には関係なくない?」
「え?」私はその言葉に驚き、顔を上げて悠太を見つめた。悠太は笑みを浮かべながら
「何、泣いてるの?」と頬をつたう涙を手で拭ってくれた。
「だって、だって…もう付き合えないかと…。」と言いながら、また涙が溢れてきて悠太が滲んで見えなくなってきた。
「俺は、お母さんと付き合ってるわけじゃなくて美那と付き合ってる。美那のお母さんの事故は大きな話題になってるけど、俺には関係ないし。それよりも事故の事で美那が苦しんでる方が心配。あの人達の言い方だと嫌がらせとかされてるんじゃないの?何でもっと早く相談してくれなかったの?俺ってそんなに頼りないかなぁ。」って言いながら自分の髪をクシャクシャとしていた。その仕草が可愛くて、思わず笑ってしまった。
「なんだよ、さっきまであんなに泣いてたのに、もう笑ってる。忙しいな、美那って。」
「ごめんなさい。だって、悠太の仕草が可愛かったから。つい笑っちゃった。」
「え?可愛い?マジか~。可愛いじゃなくてカッコいいだろ?」
「うん。悠太はカッコいいよ。」
「そうだろ?俺と付き合って良かったって思う?」
「あははっ、思うよ。悠太で良かった。」
「悠太で、じゃなくて悠太が良かっただろ?」
「うん。悠太、ありがとう。私、怖かったんだ。悠太に知られたら、嫌われて別れなきゃいけないのかと思って、お母さんの事故の事、言い出せなかった。ごめん。」
そう言って一礼した。
「美那、謝らなくていい。」その言葉に身体を起こすと悠太に抱きしめられた。
「…悠太…。」息が苦しくなる位に強く抱きしめられた。
「美那、辛かったな。よく我慢してたよ。頑張った。これからは俺に何でも話して、頼ってくれ。俺が美那を支えるから。」悠太を強く抱きしめ返しながら、嬉しくて嬉しくて涙が溢れた。
「…うん、ありがとう、ありがとう…悠太。」私はもう一人で抱えなくていいんだ。悠太という強い味方がいるんだから。
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