第41話 美那の心情⑤

 お母さんの事故を知ってからも、いつものように大学とバイトの生活、それと悠太との事も変わらずに過ごしていた。でも、それは突然、訪れた。

友達と一緒に講義を受けた後に昼食を取ろうと

「今日のお昼、どうする?」みんなで何を食べたいか話していると急に後ろに居た学生達に

「ねぇ、あなた、里中って言うよね?里中ユリって貴方のお母さん?」と含み笑いをしながら聞いてきた。心臓の音が聞こえるんじゃないかと思う位に早く脈を打った。隣に居た友達たちは、突然現れた人が何言ってるのかと呆気に取られていた。私は何て答えたらいいか…本当の事を言うべきか…違うと嘘をつくべきか…心が葛藤していた。そんな私を見て

「やっぱり、そうだったんだ。貴方のお母さん、人、撥ねて殺しちゃったね。」そう言った途端、周りがざわついた。どうしよう…どうしたら…頭の中がパニックを起こしていた。

「お母さんが大変なのに、よく大学に来られるね。貴方の家って金持ちなの?損害賠償って高額になるんでしょ?だって二人、死んでるもんね。もうちょっと家族が起こした事件に向き合った方がいいんじゃない?こんな所で呑気に勉強してる場合じゃないと思うけど。」一緒に居た学生が薄ら笑いしながら私を見ていた。

「ごめんなさい。今は弁護士にお任せしているので、私がどうにか出来る事じゃないの。」

「あぁ、認めちゃったね。ちょっとカマかけただけなのに。墓穴掘ったね。フフッ。」

「え?」

「これから大変だね。気を付けて。」とだけ言い残し行ってしまった。大変ってどういう意味?気を付けてって、何があるの?事故はお母さんがやった事であって私じゃない。色んな事が頭の中を駆け巡っていた。私はその場から動くことが出来なかった。さっきまで仲良く話していた友達も、私に言い寄って来た人達との会話を聞いて、どうしたらいいか分からずに立ち尽くしていた。講義室の中に居た人達も今のやり取りを聞いていた人が多く、あちらこちらで噂話が聞こえてきた。

(あの事故をやった娘らしい)(あの人のお母さんが犯人らしい)

私は、この場に居たら友達にも迷惑が掛かると思ったし、私自身が一人になりたかった。この場から早く逃げたかった。

「ごめん、私、ちょっと用事が出来たから帰るね。」

「…美那、大丈夫?」

「う、うん。大丈夫。ありがとう。次の講義は体調悪いから休むわ。ごめんね。」と言って足早に講義室を出た。友達は心配そうな顔で見送ってくれた。こんな私の事を心配してくれる友達が優しくて良い人達で良かった。でもその優しさに今の私が答えられる程、耐えられる気持ちは残っていなかった。ごめんね。許して。心の中でそう叫びながら、学校を後にした。

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