第40話 美那の心情④

 悠太と付き合いだしてから四か月が過ぎようとしていた、ある日。悠太の家でテレビを見ながら二人で朝食を食べていると、ニュースでお母さんと同じ名前の字幕が出ていた。しかも(容疑者)って書いてある。まさか、お母さんじゃないよね?と思いながら見ていた。

「美那と同じ苗字だね。」と何気なく悠太が言った。悠太はお母さんの名を知らない。

「うん。そうだね。」何となく私の心がザワザワと騒いでいたので、この時の私は名も一緒だと言えなかった。その後はお互い、大学の講義があるので駅で別れた。私は朝のニュースが気になって携帯で同じ事故のニュースを探した。電車の中でニュースを見ると、やっぱりお母さんと同じ名前。字も一緒。しかも実家の近所だし…。でも違う人であって欲しいと思い、この事故から避けるように考えないようにと一日を過ごした。だけど日を追うごとに、この事故が大きく報道されていた。やはり確かめようと、お母さんの携帯に電話をした。けど出なかった。何度、電話しても留守電に切り替わってしまう。仕方なく、お父さんに電話を掛けた。この時間ならお父さんは仕事中。出るとは期待しなかったけど、直ぐに出た。

「もしもし。」

掛けたのは私なのに電話が繋がった事に少し驚いた。

「お父さん、ニュースでお母さんの名前が出てるんだけど…。うちのお母さんなの?」心臓の鼓動が早くなっていた。お父さんがゆっくりと話し始めた。

「美那…ニュースの事故はお母さんなんだ。」その言葉に血の気が引いて寒気までしてきた。言葉を失っていると、お父さんが続けて話し始めた。

「美那…これは事故なんだ。お母さんが故意に起こした訳ではないんだ。そこは分かって欲しい。」

「…今、お母さんは?」

「今は警察に居る。」

「それって逮捕されたの?」

「…そうなる。けど…大丈夫。弁護士にもお願いしてあるから、直ぐに帰って来るよ。」お父さんはお母さんの事を信じていた。お父さんがそう思うなら、私もお母さんを信じて待とうと思った。でも亡くなられた人が居た。そうなるとお金が必要になると思った。私はバイトの事をお父さんに隠しているけど、バイトだけでは大学には通えない。そこが気になって聞いてみた。

「…お父さん、私…大学に行っててもいいの?」

「何でだ?」

「だって亡くなった人がいるから、お金…大変になるかと思って…。」

「家族の今の状態を心配してくれてありがとう。でも美那が大学辞めるって聞いたら母さん悲しむと思うんだ。」

「…そうかもしれないけど。」

「美那、よく聞いて欲しい。今回の事故は亡くなられた人もいて世間で大きく話題になってる。だけど、母さんは故意に起こした訳じゃないんだ。今、母さんに会えないから理由を聞けないけど。お金に関してはちゃんと保険に入ってるから心配ないよ。母さんだって美那と龍之介が希望の道に進む事を望んでるはずだ。」お父さんは私が不安にならないように優しく話してくれていた。

「…分かった。お母さんが帰ってきたら連絡して。」

「美那も何かあったら直ぐにお父さんに電話してくれよ。」

「うん。解った。」通話を終えた私は放心状態だった。何が何だか解らないのに不安ばかり…。でも大丈夫って言ってたから、お母さんの事はお父さんに任せよ。何かあれば連絡くれるって言ってたし。

この先、自分に降りかかる出来事など、この時の私は予想もしていなかった。

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