第38話 美那の心情②

「いらっしゃいませ、何名様ですか?」お客様の対応でフロアに出ていた。

最近は少しずつ、色んな事を任されるようになってきた。先輩が休みの日はフロアの誘導も出来るようになってきて仕事が楽しくなっていた。そんな時に出会ったのが彼氏の悠太。三か月前のある日、大学が終わってからのバイトの日。いつものようにフロアで接客してると、悠太が友達と二人で来店したの。その時は何とも思ってなくて、特別、悠太たちの席に行くって事もしてなかったんだけどね。悠太たちが会計に来た時に、たまたま先輩が居なくて私がレジに行ったの。会計が終わって

「有難うございました。」って営業スマイルで対応したら、急に話しかけられて

「あの…付き合っている人いますか?」って…もうビックリして目が点になった。

「…居ませんけど…。」って小声で言っちゃったんだけど。その後、一緒に居た友達が「良かったじゃん。」て悠太を小突いてた。悠太が真っ赤な顔して

「また来ます。」って足早に帰って行った。何が起こったのか呆然と立ち尽くしていたら、同僚バイトの岡部さんに話しかけられて我に返った。

「どうしたの?大丈夫?」

「う、うん。大丈夫。」

「やだ、顔が真っ赤だよ。具合でも悪い?体調悪かったら店長に言ってあげようか?」心配そうな顔をしていた。

「え!顔、赤い?」私は手を頬に当てた。

「うん。」と大きく頷いていた。

「大丈夫だよ。ちょっと暑いなって思った。」

「そう?店のエアコン効いてない無いのかな?」と言いながら仕事に戻って行った。一人になったら、また悠太の言葉を思い出して顔が熱くなるのを感じた。やばい、やばい、これじゃあ仕事にならない。落ち着け自分って言い聞かせながらテーブルの片づけをした。

 それから悠太達は私の出勤の日には必ずっていい程、来店していた。ある日、

「お疲れ様でした。」裏口から自転車に乗って帰ろうとした時だった。店の前の歩道に携帯を見ながら立っている人影が見えた。ここは通りに面しているから人通りは多いけど、立ち止まっている人は今まで居なかった。少しの恐怖を感じて、早く自転車に乗ろうとした時、声を掛けられた。

「あの、里中さんですよね、少し話したい事が…。」と近寄って来た時に街灯がその顔を照らした。悠太だった。突然の出来事に驚いて立ち止まった。すると意を決した顔で

「良かったら俺と付き合って下さい。」と言われた。本当にびっくりした。初めにレジで彼氏の存在を聞かれてから、彼の事は気にはなっていたのは事実。だけど余りに突然過ぎて返事に困っている私に

「もし良かったら…家まで送っていくよ。夜道は危ないから。」と言ってくれた。

「でも…家、直ぐなんで大丈夫です。」

「そうだよね、俺の事、あんまり知らないから嫌だよね。」と少し落ち込んでしまった。

「いやいや、そう言う意味じゃなくて…。」と余りに肩を落としている姿が可哀そうになってしまい慌てて否定すると

「え、いいの?じゃあ、家まで少し話しながら行こう。」と急に元気になった。突然の変わりように思わず笑ってしまった。

「え、俺、変な事言った?」とぽかんとしていた。その様がまた可笑しくて声を出して笑っていると

「良かったぁ、笑ってくれて。俺、すげー緊張してたんだよね。嫌われて逃げられたらどうしようって。」

「そんな逃げるなんて…。でもまだ貴方の事はあまり知らないので急にお付き合いって言われても…。」と戸惑っていると

「分かってる。今すぐ返事が欲しいとは思ってなくて、その…店の客じゃなくて…友達から仲良くして欲しいなって…。」私は今時、きちんと面と向かって伝えてくれる人は珍しく、真面目なのかと思ったので

「友達からでいいですか?。」と言うと悠太の目が輝いた。

「本当?いいの?やったー!ありがとう。」とすごく喜んでくれた。それからは時々、バイト帰りに送ってくれたり、二人で遊びに行くようになると悠太の人柄が見えてきて段々と惹かれていった。

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