第36話

 俺たちは警察署に移動した。その後は一人ずつ事情を聴かれた。

「昨日は何処で誰と何をされてましたか?」

「お父さんが美那さんと連絡したのは何時頃ですか?」

「その時、お父さんは美那さんの異変に気付きましたか?」

「今回、連絡を受けてからどれ位でマンションに着きましたか?」

「マンションに着く前に美那さんの部屋に行きましたか?」怒涛の質問攻めだった。まるで俺が犯人のような質問内容だ。美奈が生きていない事に対して精神的にショックを受けている俺に、この状況は耐えられなかった。

「…すみません…美那にはいつ会えますか?…」俺は声を振り絞り聞いた。

「皆さんの事情聴取が終わり次第、面会になると思いますので、もう少しご協力をお願いします。」

「…分かりました…。」

全てが終わったのは夜中の3時を回っていた。みんなの潔白が証明されたので帰宅が許された。学生たちは管理人さんが送ると言ってくれた。警察署で管理人さんと別れる時、

「お父さん、今回は何と言っていいか…。気をしっかり持って下さい。管理人として出来る事は何でもしますので、何時でも頼って下さい。」

「…ありがとうございます…。」と一礼した。傍で聞いていた学生たちが

「あの…美那、悩んでました。私たち…もう少し聞いてあげれば良かった…。」と泣きながら俺に謝って来た。悩んでた?俺の頭には疑問符が浮かんだが、今は美那と会いたい。会って抱きしめたいと思っていたので後日、話を聞かせて欲しいと連絡先を交換し別れた。俺は警察官に誘導され霊安室の扉の前に立っていた。霊安室…まだ信じられない。信じたくない、夢であって欲しいと思いながら中に入った。警察官が顔にかけてあった白い布を捲った。

…美那。         

…美那だ。

…白い顔をした美那。顔を触ると冷たかった。

「…美那…美那。何でこんな事に…。お父さんだよ…迎えに来たよ…お家に帰ろう…。」美那の顔を擦りながら大粒の涙が溢れて止まらなかった。涙で美那の顔が滲んで見えなくなった。俺は美那を抱きしめ慟哭した。そんな俺を付き添いの警察官は静かに見守ってくれていた。暫く泣くと俺も落ち着きを取り戻した。

「すみません。」涙を拭った。

「いえ。時間の許す限り娘さんと一緒に居て頂いて構いません。自分も一緒に付き添いますから。」

「有難うございます。もう大丈夫です。」

「分かりました。ではこれからの事を説明しますので、上の階に戻りましょう。」そう言って扉を開けた。俺はドアを出る前に振り返り、もう一度、美那の姿を見た。迎えに来るまで待っててくれ。そう俺の心に残る美那に伝え霊安室を後にした。

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