第34話

 美那のマンションに着いた。管理人室に行くと数人の女子学生と管理人が話をしていた。一人の女子学生が俺の存在に気が付き管理人に教えていた。

「里中さんですか?」

「はい。里中美那の父です。」管理人と会うのは初めてだ。美那のマンションは見に来たが契約に関してはユリに任せてしまったから。それに俺がマンションに来るのは内覧した時だけだから。ユリは度々、美那の様子を見に来ていたが、俺は殆ど足を運ぶ事は無かった。仕事にかまけて子どもの事はほぼユリに任せっきりにしていた。今思えば、ダメ親父なのかもしれないな。

「管理人の池田です。早速、合いかぎで部屋を確認して頂いてもよろしいでしょうか?」

「分かりました。」管理人が合いかぎを持って部屋を出ようとした時

「私たちも部屋まで行ってもいいですか?」と学生たちが俺に懇願してきた。

「美那を心配して来てくれて有り難う。じゃあ、部屋の前まででいいですか?風邪をひいて寝ていると君たちにうつしてしまう危険もあり申し訳ないので…。」学生たちは顔を見合わせてから

「分かりました。」と納得してくれた。俺たちはエレベーターに乗り込み、美那の部屋の階まで行く。部屋に着いて管理人が鍵を開ける際の説明を始めた。

「一応、契約では何かあった際には管理人と保証人と二人で確認する事になっておりますので、私もご一緒させてもらいます。ご理解ご了承の程、宜しくお願いします。」

「分かりました。お願いします。君たちはここで待っててくれないか?」

「はい。」不安そうな顔で頷く学生たち。管理人が部屋の鍵を開け二人で入る。学生たちも心配しているのでドアは開けっ放しにした。玄関はきちんと靴が揃えてあって、特に変わった様子も無かった。俺は

「美那、居るのか?」と上がる前に声を掛けた。部屋に入る所にドアがあるが閉まっていて中が見えない。

「美那、入るぞ。管理人さんも一緒だから。」

「すみません、契約ですのでお邪魔させていただきます。」と少し大きめの声で部屋の中に聞こえるように伝えた。

「では、入りましょう。」

「はい。」二人で靴を脱いで上がる。余りに静かなので寝ているんじゃないかと思った。もし具合が悪くて寝ているならば、男二人で押しかけて可哀そうだなと思った。部屋に入るドアを開ける。開けた瞬間、今まで嗅いだことが無い異様な匂いがした。この匂いは何だ?と俺が疑問に思っていると後ろにいた管理人が

「ダメです!これ以上、入ってはいけません。」と大きな声で入ろうとした俺を止めた。余りの勢いに驚き、管理人を見ると首を横に振りながら

「警察を呼びましょう。」と静かに言った。俺は管理人が何を言っているのか理解出来なかった。管理人が俺の手を引いて外に連れ出した。

「待って下さい。美那の様子を…。」と懇願すると

「…お父さん、もう美奈さんは生きていません。」と静かに言った。

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