第33話
俺の携帯に美那のマンションの大家から着信がきた。嫌な予感から胸騒ぎがした。
「もしもし、里中です。」俺は急いで電話に出た。
「こちらは里中美那さんが契約されております不動産会社の者ですが、里中さんのお父様でよろしいでしょうか?」
「はい。美那に何かありましたか?」俺は龍之介の出来事があるから、美那にも何かあったのではと恐る恐る聞いた。
「実は学校のお友達と言う方々が来ていたのですが…。」
「友達?」
「はい。最近、学校に来ていないから見に来たけど、呼び鈴を鳴らしても応答がないと私共の管理人に相談に来まして。ですが、ご家族の同意が無ければ私共も開錠する事が出来ませんので…連絡差し上げた次第でございます。」俺の血の気が一気に引いて心臓の鼓動が早く波打っていた。
「分かりました。今から行きます。それまで待ってもらってもいいでしょうか?」
「どれ位でお越し頂けますか?」
「一時間程で行きます。」
「分かりました。お待ちしてます。」電話を切ると、傍に居たユリが俺の異変に気付いた。
「貴方、美那に何かあったの?」心配そうな顔付きで俺を見ていた。
「美那が学校を休んでるらしく、応答が無いって管理人からの連絡だった。今から行ってくる。心配いらないよ。もしかしたら具合が悪くて寝てるのかもしれないし。そしたら看病してくるから。着いたら連絡する。」と言って支度を始めた。ユリが美那に「食べさせて」と果物を持たせてくれた。
「龍之介と二人で大丈夫か?」俺はまた、あの日の惨劇が起こるのではないかと不安になった。
「大丈夫。ご飯を置いたら声はかけないようにします。私が話さなければ、あの子も部屋で穏やかにしていると思いますから。」ユリはユリなりに自分が犯してしまった事故を悔いている。だが、大人と違って子どもには耐えられない状況だと思う。龍之介の心の闇も理解出来る。だからこそ、今、俺がこの家を離れる事が不安だ。しかし、美那の異変に対して駆けつける事が出来るのは俺しか居ない。
「ユリ、美那の様子を見てきたら、なるべく早く帰って来る。それまで辛抱してくれ。」
「分かりました。貴方も美那をお願いします。」
「あぁ。」俺は車の鍵を持って玄関を出た。数人の記者が俺にマイクを向ける。
「里中さん、何処に行かれるんですか?」
「事故の被害者に言う事はありますか?」無言で出発しようと思ったが「被害者」という言葉には誠意を持って答えなければいけないと思い
「現在、弁護士にお任せしております。今は話すことが出来ませんのでご理解頂ければと思います。家内が起こした事故でお亡くなりになられた方々にお悔み申し上げます。今後の捜査には全面的に協力していきます。」一礼してその場を後にした。記者が他にも質問していたが、俺の頭の中は美那の事でいっぱいだった。
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