第31話

 バットを持った龍之介は大きな奇声を上げながら、キッチンの食器棚やテーブル、テレビなどをバットで叩き壊していった。ユリは龍之介をこんな風にしてしまったのは自分のせいだと思い

「龍之介、止めて!お母さんが悪かったの。ごめんなさい。お願いだから止めて。」と止めに入った。だが龍之介の怒りを止める事が出来ず、ユリに止められた事で更に逆上していったとの事。ユリは何度も何度も止めに入る度に龍之介に突き飛ばされた。その都度、傷を負った。最後には力尽きて倒れこんでしまうと、その姿を見て龍之介の怒りは収まり、無言で二階に上がって行ったらしい。龍之介は、親が言うのもなんだが素直な子どもに育ってくれたと思っていた。これといった反抗期も無く成長したので、龍之介が暴れたという事が俺には想像出来なかった。この家の中の惨劇を目の当たりにすると、事故をきっかけに龍之介が変わってしまったという事だ。俺は仕事に復帰するのが早すぎたのかもと思った。ユリと龍之介の二人だけにしておかなければ良かったと感じた。だが、こうなってしまったら仕方ない。俺はユリに

「今の龍之介に何を言っても無駄だと思う。いずれ時間が解決してくれる。その時までは静かに見守ろう。」

「…はい。迷惑かけてごめんなさい、貴方。」

「気にするな。ユリ、動けるか?とりあえず傷の手当てをしてから、一緒に片付けしよう。」とユリの肩をそっと支え、リビングのソファに座るよう促した。救急箱を持ってユリの傷の手当てをした。病院に行くような大きな傷が無かった事が幸いだ。だが、薬を塗る度に顔をしかめて痛そうにしていた。

「大丈夫か?」

「うん。大丈夫。」

「俺が龍之介とユリを二人にしてしまって申し訳ない。明日からは俺が龍之介の面倒見るから、ゆっくり休んだ方がいい。」

「でも…仕事、休んでばかりだと…。」ユリが心配そうにしていた。

「大丈夫。職場も理解を示してくれているから。」俺はまだ部署が移動した事を話していない、というか話せないと思った。家がこんな状態なのに、お払い箱のような部署に異動したなんて、俺の口からは言えなかった。一家の主のプライドなのだろうと思う。移動した事を知ったら益々、ユリは自分を責めてしまうとも思った。暫く休んでも差支えのない部署で良かったと自分に言い聞かせておこうと思った。じゃなければ俺の仕事へのプライドはズタズタなのだから。

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