第29話
久しぶりの仕事は、部署の移動から新しい職場での慣れない作業で怒涛のような一日だった。神経を使って仕事した事もあり肩が凝り尋常ではない程の疲れが溜まっていた。以前の部署は残業が多かったが、ここ資料室は
「定時で上がって下さいね。そんなに急ぐ必要ないから。」と田所主任に言われた。しかもあの薄ら笑いを浮かべながら。主任の嫌味のような言葉と笑いに俺は耐える事が出来るのか不安を残した。
「お疲れさまでした。」俺は鞄を持って帰ろうと二人に挨拶した。
「お疲れさまでした。」と嶋さんも帰り支度をしていた。俺たちよりも先にドアを開け「おつかれ。」と颯爽と帰って行った田所主任。主任の「事情」が気になり嶋さんに声を掛けた。
「嶋さん、聞きたい事があるんですが…」
「何でしょうか?」
「田所主任の事情って知ってますか?」俺の突然の質問に驚いた表情をしていた。
「自分も余り詳しくは解らないのですが…」
「知っている事でいいので教えて頂けないでしょうか?」嶋さんは少し躊躇いながらも話始めた。
「聞いた話なんですが、昔、会社の創立記念式典のパーティーで飲み過ぎたらしく、招待客の上層部の方のお嬢さんに手を出してしまったとか…。」
「本当ですか?」俺は内容が衝撃過ぎて聞き返してしまった。
「当時、主任は既婚してたのですが、そのお嬢さんは知らなかったみたいで…。」その後の修羅場は何となく聞かなくとも察してしまった。
「そんな事があったんですか…。」
「らしいです。それが原因で離婚して。会社にも知られてしまい資料室への異動が決まったとか。主任は酒が好きで結構、酒臭く出勤してくる事もあるので注意して下さい。朝から絡まれたりしますんで。」と嶋さんが不快な表情を見せた。二人しか居ない職場で上司に絡まれても逃げ場が無くて嫌な思いしてきたんだろうなと感じた。
「分かりました。貴重な話を有り難うございます。気を付けます。」
二人で暗い廊下を抜けて階段を上がると夕焼けが綺麗な空が眩しく見えた。外の空気を思い切り吸うと地獄から生還したような感じがした。嶋さんに「お疲れさま」と挨拶して別れ、家路に向かった。家に近づくとまだ数人の記者が周りに居るのが見えた。
「はぁ…。」思わず深い溜息が出てしまった。会社での疲れが取れないのに家でも神経使うのかと思った。だがこの時の俺は家の中が想像以上の惨事になっているとは思いもしなかった。
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