第27話

 廊下から、それぞれのドアに資料室一から六までの数字が書かれた部屋が並んでいた。一番奥に「資料管理室」の部屋が見えた。俺は恐る恐る部屋をノックする。返答が無い。本当に人が居るのか?部長は「人手が欲しいと言っている」と言っていたから社員が居るはずなんだが…。俺はドアノブを回しドアを少し開け中を覗く。部屋の中は資料の棚が並び奥まで見えない。これではノックしても聞こえるはずはないかと思った。この中に人が居るのか?と思いながら、俺は声を掛けた。

「お疲れ様です。今日から移動してきました里中と申しますが、管理者の方は

いらっしゃいますか?」

「はい。」と棚の奥から声が聞こえた。良かった、人が居て。

「お忙しい所、申し訳ありません。今日から資料室に移動になった里中です。」と再度挨拶する。すると背の高い三十代と思われる男性が現れた。

「お疲れ様です。主任、呼んできますので、お待ちください。」再び奥に消えてしまった。話し方からして物静かな男性だと感じた。武田君とは正反対の人格だな。俺と相性合うのかと不安にもなった。暫くすると奥からタバコの匂いをさせた小柄の主任という人が先ほどの男性と一緒に出てきた。

「田所主任、こちらの方が今日から配属になられたそうです。」と俺を紹介した。

「初めまして。資料室の田所です。」

「初めまして、里中です。今日から宜しくお願いします。」

「人事部から連絡がきました。年度の途中で移動なんて珍しいですね。こちらは仕事が溜まっているので助かりますけど。」と薄ら笑いを浮かべている。俺の私情を知っているのか、移動早々に嫌味を言われるとは先が思いやられる。この主任という人物と上手くやっていけるのか不安を抱いた。

「嶋君、里中さんを机まで案内して。その後、仕事内容の説明もお願いします。」と言って資料室を出て言ってしまった。何処に行ったのか気にはなったが、背の高い「嶋」という男性に、ついてくるよう促された。

「ここが里中さんの机です。これが机の鍵です。ロッカーが無いので金銭管理は各自の机で管理をお願いします。」

「分かりました。」俺は田所主任が何処に行ったか気になり嶋さんに聞いた。

「田所主任はどちらで仕事しているんですか?」

「えーと…」と急に活舌が悪くなった。嶋さんは基本的な事以外は余り話上手では無いなと感じた。

「…多分タバコを吸いに行かれたのかと…。」

「仕事中にですか?」驚いて聞き返した。

「…はい。休憩といった時間を設けていないので、各自で適当に取ることになってます。」

「そうなんですか。」主任の待遇として疑問に思ったが、今日移動してきたばかりの俺が口出す事ではないとも思った。その後、嶋さんに仕事の手順や内容の説明を受けた。基本は膨大な紙の資料をパソコンに入力しデータ化する作業だった。仕事内容は単純だった。数時間程度で覚える事が出来たので問題は無かったが、それよりも気になったのは田所主任がタバコを吸いに行ったきり戻ってこない事だった。

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