第26話
部署に戻り机の片づけを始めた。俺の行動を部署のみんなが見ていた。小声で話しているのが聞こえる。
「部長に何言われたんだろう」「これから課長どうなるの?」片づけが終わったら皆に話した方がいいかと思いながら黙々と移動の準備をしていると武田君が近寄って来た。
「課長、大丈夫ですか?部長から何か言われましたか?」
「武田君、今まで有り難う。お世話になったね。」俺の言葉に驚いていた。
「どう言う事ですか?辞めるんですか?」武田君の驚いた声に皆の視線が一斉に俺に向いた。武田君は良い奴だが、声が大きいのが玉に瑕だ。まぁ、みんなに話そうと思っていたから丁度いいか。
「みんな、仕事している最中で申し訳ないが聞いてほしい。事情があり年度途中ではあるが移動することになった。これから部署は別になるが皆の検討を祈っている。頑張って欲しい。今まで有り難う。」と一礼した。ザワザワしていた部署内が静まり返った。驚くのも無理はない。一番驚いたのは俺なんだから。みんなの反応を気にしていたら覚悟が揺らぐ。家族の為に耐えると決めたんだから。俺は頭を上げ、荷物の片づけを再開した。暫くすると周囲がざわつき始めた。傍に居た武田君が口火を切った。
「課長、自分たちの方こそ、今まで世話になりました。でも部署が変わっても今後も仕事のノウハウを教えて下さい。聞きに行きますね。」と笑顔を見せた。社交辞令としても俺を慕ってくれていると思うと嬉しいもんだ。
「そう言ってくれて…有り難う。君は俺にとっては出来た部下だった。色々、世話になったね。」武田君と別れの握手を交わすと他の社員から拍手が起こった。
「みんな課長の事、忘れませんから。」武田君の目には薄っすら涙が溜まっていた。他の社員も武田君の言葉に頷いていた。
「みんな、有り難う。」俺はこの部署で仕事が出来た事、幸せだったんだな。この仲間達で良かったと実感していた。
俺は私物を持って部署を出た。このドアを開ける事はもう無いのかと思い、閉じたドアを見つめながら、ここまで頑張って来た自分への功績に対しての余韻に浸っていた。さて、これからは新たな環境で頑張ろうと意気込み、エレベーターで地下に下りた。地下に着きエレベーターを降りると薄暗い蛍光灯に長い廊下が俺の恐怖心を煽っているように見えた。今まで居た部署は高層階だったから明るく眩しい程だったのに。天と地の差を感じた。本当に俺はここでやっていけるのか不安になった。
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