第25話

今後の俺の立場として部長から二つ提案された。

「君の今の立場からすると仕事を解雇されてもおかしくない状況なのだが、奥さんの事故の事もあるから、君自身が稼ぎが無くなるのは困るだろう。」と家の家計の事を心配してくれていた。

「そこでだ。社長の意見は地方の関係先の工場への移動だ。そこで一からやり直す気持ちで働いてみてもいいんじゃないかとの事だ。」俺は唖然としていた。今までこの会社の為に働いてきた、この俺が地方の工場?本気で言ってるのか?と耳を疑っていると部長が続きを話し始めた。

「だが奥さんの事もあって今、地方に引っ越すのは無理じゃないかと思ってな、俺の方から社長の方にこの会社で働いてもらう事が出来ないだろうかと頼んでみたんだ。」その言葉を聞いて、部長は俺の仕事ぶりを解ってくれていたんだと安堵した。

「有難うございます。自分のした事は、本当に申し訳ないと反省しています。ですが、今まで頑張って働いてきました。なるべくこの会社で、この会社の為に再度、努力していきますので、地方への移動だけは勘弁して欲しいです。」

「分かっている。君が頑張ってくれていた事も重々理解はしている。だが、社長は女性との関係についてが気に入らない様子なんだよ。」そうだった。社長は不倫や浮気といった行為が許せない人だと昔、噂話で聞いた事があったと思い出した。

「そこで、もう一つの提案なんだが、地下にある資料倉庫への移動でどうだと社長が言っててな。資料倉庫の整理も中々進んでなくて人手が欲しいと言われているんだよ。」

資料倉庫?課長の俺が資料の整理?この年齢まで会社の為に汗水流して働いてきた俺に資料の整理をしろと!怒りが沸々と沸いてきた。

「部長、自分はこの会社の為に、何十年と頑張ってきました。それが資料整理しろと言うんですか?今までの自分の仕事ぶりへの配慮はないんですか?」語気を強めて訴えた。俺の強気の態度に今まで温和に話していた部長の顔が不機嫌な表情に変わった。

「里中君、今の君はそんな強気な事を言える立場ではないと思うんだが。会社側は君を解雇する事は簡単に出来るんだよ。君はそれだけ会社に対して損失を出しているんだから。それが解っていないのかね?だが、今まで働いてきてくれた事や奥さんの事故の事を考慮して、俺から社長に頼んで頭を下げたんだよ。もうこれ以上、この俺を幻滅させないでくれたまえ。」部長の言葉に対して自分が過信していた事に気が付いた。

「申し訳ありませんでした。部長のお心遣いに対して失礼な発言をしてしまいました。お許し下さい。」部長に頭を下げた。

「いや、分かってくれればいいんだよ。これから奥さんの事で色々、金も必要になるだろうに無職では大変だろ?資料室に行くと多少、給料が下がるだろうが子どもさんもまだ学生なんだから。少しの間は辛いだろうが、君とまた一緒に仕事が出来ると私は思っているよ。君は優秀だったからね。それまで頑張って欲しい。」部長がこんなにも俺の事を考えていてくれて嬉しかった。

「有難うございます。では資料室への移動を希望します。」俺は覚悟を決めた。

「そっか。社長にも報告しておくよ。宜しく頼んだよ。」

「はい。」部長に一礼して部屋を出た。

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